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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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04
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頑丈そうな縄でしっかりと括られたつづらの底には、ちょうど三木ヱ門が片手を広げたくらいの大きさの穴が開いていた。
「変だろう?」
「……ですね」
まじまじとその穴を見詰めた三木ヱ門は、編んだ竹がほつれて飛び出したうちの一本に、指の先でちょんと触れた。
切り口が真っ直ぐではなくギザギザしている。気を付けてよく見ると、穴の周囲は細く割った竹がくちゃくちゃといびつに潰れていて、刃物か何かで切り抜かれたというより、もっとなまくらな何かで押し切られたという様子に見える。
穴あきのつづらが渡り廊下にぽつんと落ちていたというのも奇妙だが、それよりもおかしいのは、
「この穴、内側から開けられているよね」
ちぎれた竹のささくれは全て外側を向いている。二重の十字に掛けられたびくとも動かない縄を軽く引っ張り、雷蔵が不思議そうに言う。
つづらを縄で縛るのは蓋が外れて中身がこぼれるのを防ぐため、ひいては紛失してはいけないものをしっかり保管するためだ。しかし底にこんな穴が開いていてはそもそも物を入れる事ができない。と言うことは、誰かが蓋を閉めて縄を掛けた時には、きちんと中身が入っていたと考えるほうが自然だ。
が、そのまま置いておく間に中身がつづらの底を突き破って脱走してしまった――という話になると、これは余りに不自然だ。
「脱走」
雷蔵が言ったその言葉に、三木ヱ門の頭の中でぱちんと音がした。
「脱走と言えば生物委員会だけどね。つづらの中に生き物は入れまいよ。ああ、でも――」
瞬間、遠くを見る目をした三木ヱ門へわずかに訝しむ視線を投げて、雷蔵はくるりと穴の縁を指でなぞる。おや少し濡れている、と妙な顔をした。
「もしかしたら、素人が触れたら危険な生き物でも入れていたのかな。――だけど、八左ヱ門は生き物をこんな情のない閉じ込め方はしないか……」
いや、たとえ竹谷先輩とて相手によってはそれも已む無しと決断されます。
口走りそうになった言葉を、くしゃみの続きのふりに紛れさせて慌てて噛み潰した。
「中身が飛び出さないように」厳重に縛られた小振りなつづら、内側から破られた穴、転がっていたのはあまり人通りのない、校舎の裏手の渡り廊下。
木下から脱走した小猿を受け取った八左ヱ門は何かの理由ですぐには元の小屋へ戻せず、とりあえずつづらの中へ隠して人目に付かない場所にこっそり置いておいたが、一度自由を知った小猿は勇躍つづらを食い破り、再び脱走した――のでは。
「どうしようね、これ。落とし物でいいのかな」
また面倒なことになったかもしれない予感で固まる三木ヱ門をよそに、くるくるとつづらをもてあそびつつ、困ったように雷蔵が言った。


思わずビクッとして体が揺れ、その弾みで跳ねた肩がガンと板戸にぶつかる。途端に戸の内側の桟に積もっていた埃が舞い上がって、物置部屋に半身を突っ込んでいた三木ヱ門の眼や鼻をつぷつぷと刺した。
「ぶ、べぇ、べ、べぇっぐしっ」
一度は堪えようとしたものの押し寄せるむず痒さにあっさり堰が切れて、最初の一息が飛び出すと後はもう止まらない。大丈夫? と誰かの声が聞こえたような気がしたがそれに答える暇もなく、辛うじて両手で鼻口を覆って、頭を振り立てるようにして立て続けにくしゃみをする。
ややあって、涙で滲んだ目の前にすっと鼻紙が差し出された。
「ずびばぜん」
ぼやけて見えない相手にくしゃみの合間に頭を下げてそれを受け取り、びいっと思い切り鼻をかんでどうにか人心地つく。袖口を引っ張って目元を拭いながら傍らの人影にようやく注意を向けると、そこに立っているのは、苦笑いを浮かべた雷蔵だった。
「君の泣き顔を見るのは今日三回目だ」
そう言う雷蔵は、今回は書物の山を運んではいない。
その代わり――古くも新しくもない、竹を編んだ小振りなつづらをひとつ、体の前に両手で抱えている。
何重にも折り畳んで小さくなった鼻紙で最後にキュッと鼻をこすると、三木ヱ門はしょぼんと肩を落とした。
「みっともないところをお見せしました」
「変な声を出して驚かせちゃったか。ごめんね」
こんな所で何をやっていたのだとは尋ねず、雷蔵も申し訳なさそうに眉を下げた。抱え直したつづらがかさこそと音を立てる。
「そのつづらは何ですか?」
「私のものじゃないんだ。向こうの渡り廊下の端で拾ったんだけど、」
言いながら、雷蔵はくるりとつづらをひっくり返した。


全力でふざけました。


ブラウザがIEだとうまく動作しないページがあるかもしれません。
トップページの一番下に本来のサイトコンテンツのリンクがあります。



追記:4月2日
エイプリルフール企画にお付き合い頂きありがとうございました。


「ドクタケ水軍創設準備室が求人開始にあたってオフィシャルサイトを作っている最中に、うっかり中途半端なデータをサーバに上げちゃった」体で、↑のようなトップページに変更していました。パズルゲームのページや、オンマウスで文字が炎を吹くエフェクトに気づいた方はどれくらいいらっしゃったんでしょう……。がんがってJava書いたよCSS組んだよ……。
4月1日に日付が変わった瞬間からほぼ丸一日、忍者ツールズ様のサーバ(本物)が異様に高負荷状態が続いていたので、正しく表示されなくてなんじゃこりゃーな時間帯が多かったかもしれません。
本来のコンテンツを目的においで頂いた閲覧者様にはご迷惑をおかけいたしました。

すいません本人は楽しかったです。
おまけページに力が入る漫画家の気持ち。



眼の調子が悪かったら目薬もありますよと言って、伏木蔵と怪士丸は"鼻の薬"を取りにぱたぱたと医務室へ走って行った。
利用できるものはなんでも利用するのが忍者だ。
とは言え、純粋な良心を利用するのは、己の良心がとがめる。
「……ごめんなー」
二人が去った方角へ向けて三木ヱ門は軽く手を合わせた。
今頃は勘右衛門も医務室へ足を運んでいるだろう。急に「お客」が増えて、"鼻の薬"の在り処を知らない乱太郎は慌てているかもしれない。……また試薬の犠牲になったかもしれない留三郎は無事だろうか。何につけ行動の早い留三郎が作兵衛にまだ会っていなかったことを考えると、鎮痛膏改・三号の為にどこかで悶絶している可能性が高い。
爆発、骨が痒い、と来て次は何だろう。
想像してブルッとした。
目についた廊下の端の物置部屋に急いで近付き、周囲を見回して人がいないのを確認してから、板戸の引き手に手を掛ける。今度は鍵がかかっている様子はなく、建て付けのあまり良くない重い戸は、ぎりぎりと軋みながら一尺ほど開いた。
中は――埃っぽくて薄暗い。
「あれえ?」
かすむ物置部屋の中へ目を凝らす三木ヱ門の背後で、素っ頓狂な声がした。


「突庵先生と北石先生かぁ。僕たちの組に来ていた先生はどうしてるんでしょうね」
右へ左へ首をかしげていた怪士丸が、ぽつんと言った。
「名前も覚えてないけど――あれ? そもそも聞いたっけ――でも、元気に忍者してらっしゃいますかねぇ」
「忍者って"する"とか"しない"とか言うものかな」
小松田がドクアジロガサ忍者に狙われて一年生が長屋中で上を下への大騒ぎをしている最中、それに一切気付かずぐっすり寝ていた第三の教育実習生がいたと聞く。突庵や北石に会っていながら今の今まで三木ヱ門はすっかり忘れていたが、受け持った生徒にさえ名無しの権兵衛扱いとは。
「存在感が薄くて強心臓なら、先生としては失格でも忍者としては合格だろう。どこかで働いてらっしゃるさ」
「だといいなぁ」
「ねー」
怪士丸と伏木蔵が顔を見合わせてニコッとする。
会計委員会には一年ろ組の生徒がいない。ゆえに三木ヱ門はあまり接する機会がなく、一年ろ組と言えば陰気で気弱で潔癖症で神経質という印象ばかりが先に立っていたが、やはりと言うか、そればかりではないようだ。
教科担当担任は除く。
「……斜堂先生は風邪をひきかけていらっしゃるようだな」
空中から突然現れた(何と言われても三木ヱ門にはそうとしか思えない)時、鼻や喉の調子が良くない様子だったし、寒気がすると言って医務室で生姜湯を飲んでいったと乱太郎が言っていた。常日頃は自ら冷気を発散しているような佇まいであるにも関わらず。
「午前の授業中、黒板の上の方に虫が這い出して来たんです」
その軌跡がまるで一本の線に見えるほど恐ろしく足の早い虫が、と、右から左へ素早く手を動かして伏木蔵が言う。
「とうとう長屋から移動してきたか……」
「何の話ですか? 斜堂先生がそれに消毒液の瓶をぶつけたら、瓶が割れて頭からかぶっちゃって、」
「気化熱で一気にひんやりして、ブルブルです」
「医務室にあるよく効く"鼻の薬"を持って行って差し上げたらどうだ?」
三木ヱ門が言うと、一年生たちは「それはいいですね!」と顔を輝かせた。
良い子だ。
「先輩、どうして僕たちから目を逸らすんですか?」
「眩しくて」


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