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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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それと同時に天井が抜けた。
どざあっ、と特大の土嚢を引っ繰り返したような音と共に、さっきまで三木ヱ門が立っていた場所に土砂や石ころが雪崩れ落ちてくる。
それに混じって喜八郎がすぽんと降って来た。踏鋤を抱えたまま器用に着地すると、流石に驚いた様子できょろきょろと辺りを見回し、火を灯した紙縒りを片手にへたり込む三木ヱ門に目を留めて軽く目を瞠る。
「おやまあ。なんで三木ヱ門が地下にいるの」
「……あ、案の定だ、案の定だ」
「この穴、何?」
呻く三木ヱ門を気にかけるふうもなく喜八郎はぺたぺたと壁面を手のひらで叩く。苦無か手鋤か、何かの道具で掻いた跡に触れて、「七松先輩かぁ」と感嘆したように頷いた。
「なにこれ凄い、ちょっとした隠し通路みたい。どこまで続いてるの、これ」
「……。こっちへ行くと長屋、そっちは分からない」
来た方向を指さしてぐったりと三木ヱ門が言うと、喜八郎は少し伸び上がってそちらを眺め、それから自分の背中の方を振り返った。くるりと首を回して上を向き、底を抜いてしまったタコツボを見上げ、ちぇっと小さく舌打ちする。
「せっかくいい調子だったのに」
「アナンダ三号か? 大概にしないと、また用具委員会に叱られるぞ」
「違うよ。二号・改だよ」
腕を上げて地上の方を指し、喜八郎は不満そうに足元の土くれをぐにぐにと踏み潰す。
「じゃあ、この上は三叉路か。……と言うか、また"改"か」
「それ、何の話? 面白いこと?」
「一度完成したタコツボをさらに改造するなんて、珍しいな」
気にするなとか何でもないとごまかしても食いついてくるのが分かり切っているので、三木ヱ門は強引に話題の舵をきった。
「今日一番の傑作を埋められちゃったからね」
何気なく踏鋤を肩に担ぎ上げ、そうしてから周囲にぶつけもせずひょいと担げたことに気付いて、喜八郎は口を尖らせた。


ひっさっびっさっに「手遊び」更新しました。
片方は出て来ませんが、納豆やラッキョが絡まない真面目な喧嘩をしたらしい30代前半同士。これくらいの年齢まではアラサーと呼んでいいと今知ってびっくりだ定義広すぎ。
微妙に訛ってる大木先生の口調がよく分からなかったので、コレジャナイ感びしばしだったらごめんなさい。油断するとどういう訳かエセ坂本龍馬になるんじゃき。
ひっそりとサイトが9年目を迎えたのを機に初期の書きものを読み返してみたら、全体の文字数も少ない当時とは違って今の文章は随分クドくなってるなぁと自省したので、原点回帰のつもりで簡潔さを心がけて短めに書きました。余韻を残すのと投げっぱなしジャーマンの違いはどこにある……。

ついでに過去作の「修羅をさやかにいく男」は、読み手様に結末を委ねたリドルストーリーで、撃ったか撃たなかったかはそこまでの過程の解釈次第です。自分で書いたものに自分で解説をつけるのは野暮の極みだのー。


「これ、竹谷先輩の……かな」
焔硝蔵の前でしたように指で足跡の長さを計り、三木ヱ門は首を傾げた。
穴に飛び込んですぐ足元の無数のこぶに気付いたのか、そろそろと爪先立って進んだらしく、掘り返した土に残る足跡は妙に小さくて深い。まるで狐走りをした跡のようだ。
立ち上がり、少し先の地面に目を落としつつゆっくり歩き出す。
「……地面て言葉は、土地の表面だから"地面"なのかな」
どうでもいいことが、ふと気になった。
それなら校舎や倉庫が建つ土地の下にぽっかりとできた、自分が今立っているこの道は、何と呼んだらいいのだろう。地中か、地下か、やっぱり「地下道」だ。
片手に掲げた小さな火が周囲をわずかに照らす他は真っ暗で、穴に高低はなくほぼ直進しているが、まっすぐに見えて緩やかに曲がっているような感覚もある。三木ヱ門は目を閉じ、学園内の見取り図とここまで歩いて来た地下道の伸びる方向を頭の中で重ね合わせた。
下級生長屋の下を抜けて――上級生長屋を通って――今は、倉庫の辺りか?
見当をつけて目を開くと、頼りない紙縒りの火がやけに明るく映って、三木ヱ門は思わず強く瞬きした。
ふらりと火が揺れる。
「え?」
瞬きの勢いで風が巻くほど三木ヱ門の睫毛は長くない。地上でたったいま強い風がひと吹きしたとしても、地中のここまでは届かない。
どこか近くに空気の通り道が、地上へ繋がる穴がある――と辺りを見回した次の瞬間、三木ヱ門はその場を飛び退いた。


これをひとりで掘ったのか。

打竹の火種を紙縒りに移して小さな火を灯し、片手を壁に付けて慎重に歩きながら、三木ヱ門は呆れていた。
もぐらは掻いた土を自分の後ろへ押しやりつつ前進して穴を掘り進めていくと聞いたことがある。小平太もそのやり方を踏襲しているようで、足元のあちこちに小高く土が盛り上がり、暗がりの中に不規則なでこぼこが続いている。
まるで罠だと思った瞬間、踏み崩した土の山につまづいた。
「わぁっ」
ふわっと両足が地面を離れ、こけるなんてカッコ悪いと頑張って体勢を立て直したが、浮いた足をぐっと前へ踏み込んだそこにまた小山があって結局転んだ。
「……なんで転べるんだよ!」
土の上へ投げ出された紙縒りの火が、少し先でちろちろと燃えている。舌を出して笑っているように見えるその火に向かって三木ヱ門は毒づいた。
泥まみれで這い進むのを覚悟していたのに、小平太の堀った穴はむしろ地下道と呼びたいような高さと幅を備えていて、少し屈む必要はあるが三木ヱ門の背丈でも十分に立って歩くことができた。もっと小柄な一年生や二年生なら駆けっこさえできそうだ。
「シールドマシンか、あの人……」
体力増強剤を投与した小平太を城普請や治水工事の現場へ派遣したら、それはもう引っ張りだこに重宝されることだろう。いっそそうやって自前の予算を作ればいいのにと、よく見れば掘りっぱなしではなく軽く叩き固めてさえある壁面に触れて、三木ヱ門はまたつくづくと呆れた。
とにかく進もうと気を取り直し、落ちている紙縒りに手を伸ばして、ふと土の上のくぼみに目がとまる。
足跡だ。
低く屈んで土に顔を近付け、かざした火を透かすようにして先を見ると、長屋の反対側へ向かっていく足跡が一人分、ずっと続いている。


「あれ、何の符丁なんですか」
「内緒」
そんなぁ、と作兵衛が眉を八の字にする。
後輩から思いがけない言葉を浴びた留三郎の意識が一瞬飛んだその隙に、乱太郎と左近はまるで網を打つようにして留三郎に敷布を被せ、医務室の隅に伸べた床(とこ)へ二人がかりで引き込んでしまったのだそうだ。
「是非にも休んでいろと保健委員が言うのだから、そうした方が良いのでしょうけれど」
しょぼしょぼと瞬きして、作兵衛が片手で目をこする。
程度の分からない怪我をしているのだから安静をとるべきなのは確かだが、六年生を追い回しているうちに何だか楽しくなった乱太郎と左近が少々悪乗りした、という理由もあるように三木ヱ門には思える。地引き網漁じゃあるまいし。
「それで食満先輩が医務室に拘束されたから、作兵衛が補修の指揮を執っているのか」
「そんな大層なもんじゃありません。委員長がいつもなさる事をなぞっているだけです」
先に学園へ戻っているように村で言われた時にはしていなかった怪我を、留三郎がいま負っている理由を考えているのか、謙遜して答えながら作兵衛の口元が厳しい線を描いている。
三木ヱ門はそのぎくしゃくと動く顎から目を上げて、作兵衛の目の真ん中を見た。
気圧されたように作兵衛が肩を引く。視線を泳がせても、一年生たちは木くずを集めたり割れた板を短く切ったりするのに夢中で、何やってるんですかぁと横槍を入れに来てはくれない。
「床下を掘り進んで来た七松先輩が廊下をぶち破ったことはお伝えしたのか」
「は、はい」
正面の三木ヱ門に急いで焦点を戻し、作兵衛が頷く。
「廊下は早く直さないと他の生徒に迷惑だから、応急でいいから修理を頼むって」
「穴はそのままか」
「はい。どれだけ掘ったか分からねぇものを埋め戻すのは御免だ、本人にやらせるから放っとけ、と」
「このまま残しておいたら、こっそり長屋を抜け出す時に便利そうだなぁ」
「そんな事をおっしゃるんですか。田村先輩が」
「意外か?」
ひょいと屈んで床下を覗くと、言葉通り穴はまだそこでぽっかりと口を開けている。深さや方向はどうなっているのかと考えながら、三木ヱ門は言った。
「食満先輩はここへ御動座なさらなかったのだな」
「保健委員に監視されていますので」
「そのくらい、六年生が本気で振り切ろうとすれば振り切れるだろう」
しかしそれをしないで、作兵衛に後事を丸投げして敷布の簀巻きに甘んじていることの理由も考えてみるといい。
床下へ潜った三木ヱ門が穴の中へ滑り込む寸前にちらりと見えた作兵衛の顔は、これ以上ないくらいぽかんとしていた。


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