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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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何だかんだで行き来のできた貿易商に「こういう薬草は扱っているか」と問い合わせたら「あるよ」と簡単に出て来たので、まさかそんなに貴重な品だとは思わなかったのだ。
それなのに一体どうやってすぐに用意できたのかと、伊作は驚いた。鳥か獣でなけれな通えないような深山幽谷にしか生えない、珍しくて高価な草なのに。
「この日ノ本の国の山ん中――とは、今思えば、確かに言ってなかった」
不審を感じた伊作は敢えてそれを言わずにおいたのかもしれない。
入手先をごまかそうとした八左ヱ門は、そこで下手を打った。
「三治郎の知り合いの山伏からたまたま貰った、って言っちゃったんだよな……」
山伏は修行の場を人里から遠く離れた、それこそ鳥獣しか住まないような山奥に求め、俗人には想像もつかないような修練に励むという。しかしそれでも海外修行までしてくるような猛者はいない。
つまり八左ヱ門が「山伏に貰った」と口にした時点で伊作には嘘がばれていた。
「――はずなんだけど、その時は何も言われなかった」
「……それは怖いですね」


喋るにつれて八左ヱ門は目の前の三木ヱ門が目に入らなくなっていくようで、話す内容も、問わず語りと言うよりは埒もないぼやきに近づいていく。もっと薬草の勉強をしておくんだったとか、あの嗅覚を他に活かせばいいのにとか、研究者は頭がぶっ飛んでるとか、愚痴とも懺悔ともつかないことを際限なく呟き続ける。
意味が分からない。
分からないなりに確かなのは、八左ヱ門は今、伊作を一件に関わらせたのを激しく後悔しているということだ。
それはどうやら、三木ヱ門に対して見せたような、生物委員会と無関係な人物に重い責任を負わせた――という良心の呵責ではないらしい。
「鼠相撲」
三木ヱ門がぼそっと言うと、八左ヱ門の繰り言がぴたりと止んだ。
「で、不正をされましたね。蜜漬けの体力増強剤でネズミをドーピングして、それで用具委員会に勝った」
「五年から聞いたのか? 誰から……いや、もうそれはいいか。少しごまかした。本当は相撲じゃなくてゼロヨンだ」
「……あ、納得」
長屋の廊下で見たねずみのあの驚異的な加速力は確かに、パワー勝負よりスピード勝負に相応しい。最近長屋に出るゴキブリなど、素早過ぎて最早目に見えないからかえって気にならないと久作が言っていたっけ。
「その体力増強剤は、善法寺先輩が作られたものですよね」
「他にいるか?」
しょげた顔の八左ヱ門が自嘲気味に笑う。
「目的は隠して、動物にも効く強壮薬はないか聞いたら、調剤法はあると言われたんだ」
ただ、材料は持ち合わせがない、と言う。
あれば作れるのかと尋ねると、伊作は「あれば、ね」と言って苦笑いした。その苦笑いの意味を深く考えず、貿易商に頼んで薬種を少し分けてもらい、伊作に渡して調剤を頼んだ。
「……その時の薬草が、海の向こうの国じゃないと採れないもんだったんだよな」


04
1点リードされた状況で
ドローとW杯出場権がかかったPKを
アディショナルタイム1分過ぎてから
6万人に見詰められながら
真ん中に蹴る本田△。

1~3月の季節もの小話再掲しました。節分ネタの方はタイトル変更してます。
オーストラリア戦の結果で思った以上にいっぱいいっぱいになってもたので「クエスト」一日休みます。ごめんなさい。


その目がふと地面を向いた。
つい釣られて三木ヱ門も視線を落とすと、人差し指ほどの大きさのトカゲが二人の膝の間をするすると横切って行くところだった。急ぐでもなく泰然とした足取りで隙間を抜け出して、尻尾をくねらせながら反対側の草むらの中に消えて行く。
素早い動きだ。
しかし、下級生長屋で弾丸のようにすっ飛ぶねずみを見てしまった目には、せかせかした脚の動きが目視できたぶん随分とのんびり歩いているように感じた。
「今の、飼育小屋から脱走したトカゲですか」
「あれは野生」
冗談半分に尋ねる三木ヱ門に、八左ヱ門は生真面目に首を振った。
その首がやや前に垂れた。地面の上に言葉をこぼすようにして、低い声でぼそぼそと言う。
「……善法寺先輩は怖いひとだ」
「怖い?」
「人当たり良さそうに見えて抜け目ない」
「へ?」
「最初に相談しちまったのがケチの付き始めなんだ」
「はあ」
「あれで不運に感染したのかもしれないな」
「はい?」
「いやでもウチに悪いツキを呼び込んだのが善法寺先輩だから不運のご本尊は先輩……、いや、大元は俺か」
「あのー。もしもし」


「俺はその輪に入ってないよ」
「……仲間はずれ?」
「ヤなこと言うね」
八左ヱ門が別件で手一杯なのが分かっていたから、この上さらに面倒を負わせないよう五年生たちが気を使ったのだろう。その気づかいにどれほどの理があるのかはともかくとして。
そのくらいは三木ヱ門も察しがついたので、わざとらしく声をひそめて囁くと、八左ヱ門もわざと鼻にしわを寄せて見せた。
勘右衛門も蚊帳の外に置かれているようだが、その理由を推測するには今ひとつ勘右衛門の周辺情報が足りない。委員会単位での企みらしいのは確かだから、学級委員長委員会からは既に三郎が参加しているので員数外――ということだろうか。同じ委員会の中に事情を知る協力者がいたほうが都合が良さそうなのに、と三木ヱ門は考えた。
各委員会へ抜き打ち監査に入る場合、その情報が外部に漏れないよう会計委員会の中でも決行当日まで伏せられているが、顧問の安藤との相談が済んだあとに文次郎は三木ヱ門にだけは前もって伝える。事前に何を準備するわけでもないが、いざ行動開始となった時に心構えができているやつがいれば何かと円滑に進むから、文次郎は言っていた。
憶測に推測を上乗せしてみても埒が明かない。とりあえず勘右衛門のことは脇に置く。
「四つ目です」
「うん」
「善法寺先輩の役割はなんですか」
諦めたように頷いていた八左ヱ門が、ふらっと目を泳がせた。


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