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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「いぃぃ!?」
「ひぁっ」
「……く!」
間近でまともにその音を聞いた五年生たちは両手で頭を抱え、耳を押さえて身体を折り、声ならぬ声で喘ぐ。
三木ヱ門は振り向きつつの立ち上がりざまに腕をブンとひと薙ぎし、真後ろにいた兵助の膝裏を肘で叩いた。
不意の一撃によろめいた兵助が体勢を崩して膝を突く。その背中に手をついて飛び越え、まだぼんやりしている団蔵に「抜き打ちテストだ!」と怒鳴ると、瞬時に覚醒した団蔵はまっしぐらに開けっ放しの黒板へ突進した。
団蔵に続いて三木ヱ門も頭から隙間の穴へ飛び込み、ろ組の教室へ転がり込むと、黒板へ飛びついて思い切り横に引いた。
がらがらぴしゃん! と景気のいい音を立てて仮の通路が閉じる。
「外へ出るぞ」
ここはどこだときょろきょろしている団蔵の手首を引っ掴み、教室からも駆け出す。
廊下を曲がり、階段を二段抜かしに走り下り、校舎の外まで一気に突破する。ちらちらと背後を警戒するが五年生たちが追って来る気配は無い。団蔵の指笛は強烈に効いたようだ。
「先輩、馬も、テストも、いません」
半歩遅れて走りながら団蔵が不思議そうに言う。三木ヱ門はその頭をはっしと掴み、撫でようとして思い直し、振り回した。
「あわわわわわわ」
「大したエルラッドだ、お前は」
連絡手段どころか音響兵器として実用に耐えてしまった。あれほどしっかり耳を塞いでいたのに、じんじんと鼓膜が痺れる感覚がする。
「何ですかそれ。それに、どこへ向かってるんですか?」
「医務室。潮江先輩の所。ここまでに分かったことをお話しする」
「今、いらっしゃるかな」
「えっ?」
団蔵の手を掴んだまま三木ヱ門は急に足を止めた。つんのめった団蔵が背中に衝突して潰れた声を上げる。
それはどういう――と三木ヱ門が尋ねかけるその後ろから、大きな影が風を巻いて突っ込んで来た。


「職権濫用には賛同しかねます」
「なに、濫用ではなく正当行使だったという方向に持ち込める理由をでっち上げればいいだけの事だ」
「でっち上げ、って既に自白してるじゃないですか」
「生来の正直者でね」
「どこまで本気で仰っているんです?」
「最初からここまでずっと本気」
「成程」
なるほど。
胸の内でもう一度噛み締めるように呟き、表面上はやや不貞腐れた態度を保ったまま、三木ヱ門は猛烈な勢いで考え出した。
裏予算案のことを文次郎に喋るなら自主練習に使う火薬を回さない、と兵助は言った。
公私混同の横暴だと力いっぱい糾弾したい、つまり三木ヱ門にとってある意味一番痛い所を突かれた、これも脅しだ。まったく、上級生に凄まれるのは今日何回目だ?
照星には既に一度完膚なきまでに叱り飛ばされているのだ。このうえ更に駄目出しを積み上げられるくらいはなんでもない。……ことはないけど、へこむけど、少しくらい褒められることをして見せたいって下心はあるけど、でも。
春子に鹿子にユリコにさち子。丁寧に磨き上げ丹念に手入れをするのは楽しい。しかし、ただそれだけで一度の発射も出来ずあとはしまい込むばかりでは、ただの少しばかりごつい人形遊びだ。
そして僕に人形遊びの趣味はない。
道具として生まれたものは使われる時こそが最も美しい。
彼女たちが一番輝ける機会を失わせようとするならば、たとえ上級生でも許さない!
「……してはいけない脅しをしましたね」
「ん?」
「団蔵っ」
鋭く声をかけると、ゆらゆらしていた団蔵だけでなく、五年生たちまで一瞬動きを止めた。
「馬が逃げたぞ。呼び戻せっ」
「ふぇ? あー、大変だ」
頭ごなしに言われて寝ぼけ半分の団蔵が指をくわえる。三木ヱ門は素早く両手を上げてきつく耳を塞ぎ、事態を把握しきれない五年生は対応が遅れる。
猿叫に似た凄まじい高周波音が、は組の教室をびりびりと震わせた。

「こっちに負い目があるから疑わしく見えるってのは分かってるんだけど」
衒いもなく言って、三木ヱ門の背中に押し付けた手の指をぱた、ぱた、と不機嫌な猫の尾のように動かす。
「用心しておいて損はない。で、校舎に走った」
雷蔵を探して善後策を話し合うために。
兵助が顔を向けたのか、雷蔵が三木ヱ門の後ろへ目をやり、ほんの少し困ったような表情をした。手持ち無沙汰そうに垂らしていた腕を緩く組んで首を傾げる。
「と言っても、私にも潮江先輩をごまかせるような名案はないよ」
「それをこれから考えようってこと。――が、雷蔵が田村たちにさらわれて、只今の状況なわけだ」
「そして私は絶体絶命なんですね」
半ば自棄気味に三木ヱ門が言うと、兵助は平然と「その通り」と答えた。
「参考までにお尋ねしたいのですが」
「どうぞ」
「肩を捩じ切られてでも事の次第を会計委員長に報告すると言ったら、どうなりますか」
「職務に殉じた志を褒めてあげよう」
「……それはどうも」
「渡辺綱じゃあるまいし、腕をもぎ取ったりはしない。安心しろ」
さすがにバッサリ行かれるとは思わないが、それでもさっきのショルダークローは十二分に効いた。肩に痕がついたんじゃないかと、三木ヱ門はふと気になった。
「ところで俺は火薬委員会委員長代理だ」
いくらか改まった口調で、兵助が知れきったことを宣言する。
「存じています」
「生徒からの火薬持ち出し申請の受理と却下は、俺の判断でする」
「それも存じて――」
「田村。田村は来月、佐竹村へ火縄銃の指導を受けに行くと言っていたな」
尊敬する狙撃手に格好悪い姿は見せたくない。その為の事前練習は、まだまだし足りないだろう?

「第三段階、さぶろ――」
「ごめんなさい黙ります蹴るのやめて。それ結構痛いんだ」
兵助が言いかけ、両手で口を押さえた三郎が頭を垂れた。
人件費を削れば品物の値段が安くなるから、クラスで使う雑巾を縫っていた庄左ヱ門(と伊助)は健気? ってどういう意味?
酔っ払いの戯れ言のような三郎の言葉をまとめてみて、三木ヱ門はこっそり首をひねる。その心は「今までは商人から買っていた雑巾を自分たちで作ることにした、それもお駄賃なしで」か? きり丸が聞いたら滂沱の血の涙を流しそうな話だ。古布をささっと縫えば作れる消耗品を予算を割いて購入していたことと、タダ働きを強いられることと、で。
私の委員会の――とわざわざ頭に付けたのは、学級委員長委員会が計上した"つづら代"に繋がってくると仄めかした、ような気がする。それとも、単にからかうつもりか。いずれにせよ雷蔵は知らない話だったようだが。
……やっぱり、予算を余らせる方策は安全のために互いに知らせずにいるのか?
ならここで「つづら代」「鳥の子玉代」の話題を出したら、火薬と学級の委員長代理に何か作用するかも――
ぐっと首の後ろを押し込まれて、三木ヱ門の思考が中断した。
「同じことを何度も言わされるのは好きじゃない」
低い声で兵助が言う。
「だから話を進めよう。……善法寺先輩が立ち寄らなかったかと尋ねるついでに、焔硝蔵の中に誰かいるのかと仰った潮江先輩に、俺は咄嗟に"伊助がいる"と答えた」
目を泳がせたり言い淀んだりせず、すらりと言ってのけた自信はある。文次郎も不審そうな顔はしなかった。そうか邪魔したな、とだけ言ってそのまま立ち去った。
が。
気になった。どうしても気になった。文次郎は"伊助"の声を聞いたのでは。正体に気付きながら、嘘を吐いた兵助を問い質さず知らぬふりをしたのでは。それならその意図は奈辺にある? まさかこちらの企図を知って、敢えて泳がせているのでは?

「三反田数馬です。乱太郎に会うなりスライディング土下座されました。なにこれ怖い」


本日より今年の夏企画「夢十夜」はじめます。タイトルは漱石の著作から拝借しました。
期間はおおよそ一ヶ月の不定期更新で、全十回の予定です。

コンセプトは「誰かが見ている夢の話」。
全ては夢よ、を免罪符に、原作準拠を掲げる通常版ではやらない禁じ手も話中に出て来ます。
なので原作設定の逸脱がお好みでない方は読まぬが吉でございます。
尤もサイト傾向は全年齢向きを標榜しておりますので、そこからは外れないように自制します。
外れたものはどこかに沈めるかもしれません。


本家の夢十夜はこの前初めて読みました。青空文庫で。
ついでに読んだ「艇長の遺書と中佐の詩」の死者に鞭打ちっぷりに不謹慎ながらちょっと笑った。

漱石は「坊っちゃん」と「吾輩は猫である」しかまともに読んだことないよ!
芥川の「河童」を読んでなるほどこいつぁ病んでるなと思ったよ!
鴎外の「舞姫」の太田豊太郎にワンパン入れたいよ!
くらいの感想しかない文学レベル低い人間ですが、名前だけは知ってる純文学作品を拾い読みしてると結構楽しいです。便利だな青空文庫。

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