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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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あっちだこっちだとけたたましく騒ぎながら右往左往する声は、紛れもなく生物委員会だ。異界妖号を乗り捨てた小猿がこの林の中へでも逃げ込んだのか、それにしてもあんなに大声を出してバタバタしていたら、猿が驚いてますます奥へ引っ込んでしまいそうだ。
「僕が気にすることじゃないんだけどな」
孫兵は右へ回り込めー! と、一際通る声が木立の間に響く。
必死になって隠していたあれやこれやを吐き出し、一人すっきりして池の端から爽やかに駆け去った八左ヱ門がちょっぴり憎い。そう言えば屋根の上の追いかけっこの相手は結局誰だったんだろう。精密射撃さながらの石つぶてを浴びせられ、それも忍術です、と開き直ったように叫んだ相手は。
――屋根の上。
「ん?」
その言葉が、記憶の中の「何か」と「何か」を繋いだ感触がした。その結び付いた部分はなんだと思う暇もなく、深い穴、長屋の近く、落ちる、出られない、こだま、捕獲、医務室、ゼロヨン、ねずみ、"鼻薬"、と断片的な単語が次々と溢れ出してくる。
長屋の屋根から落ちた所に落とし穴があって、不必要に深いその穴から出られないでいるうち文次郎に捕まった伊作。
どうして屋根なんかに? それは異常に行動が活発化している虫を遠ざける薬草を置いて回っていたから。
どうして虫がそんなに元気? それは虎若がぶちまけた体力増強剤の蜜漬けを舐めたから――これはまだ推測だけれど。
どうしてそんな薬がある? それは伊作が生物委員会に頼まれて作ったから。そして保健委員長は希少な薬草をねだる伝手を手に入れた。
ねだる、を漢字になおすと「強請る」になるんだっけと、あまり関係ないことを思い出した。
ゆする、と同じ字面になるのは何の因果だろう。


森閑とした林の中をのろのろ歩きながら、とめどもなく溜息がこぼれる。
文次郎に会ったら……まずは謝るべきだろう。どの時点で不興を買ったのか今ひとつよく分からない。それでも自分の方に何かしら非があるのは確かなのだから、とにかく頭を下げなければ。卑屈にならないように誠心込めて――しかし、「何だか分からないけどごめんなさい」というのは真摯な態度だろうか。火に油を注ぐようなことになったら目も当てられない。
団蔵も団蔵だ。潮江先輩がそんなに不機嫌そうにしていたなら雰囲気くらい察せただろうに、なんだか上の空だった、なんて随分な見間違いだ。
八つ当たり気味にぐだぐだと考えていると、ちちち、と梢から鳥の声が降って来た。
小路を挟んで反対側の樹上で、ちゅん、と応える声がする。
「作法のすずめか?」
観察されているのかな、と思った途端、歩む足が重さを増す。
「せっかくあちこちに行けるんだから、どうせならみんなの役に立ってくれないかな? 僕を見張っても面白いことなんかないぞ。逃げてる猿を探すの手伝ってやれよ。生物委員会が困ってる。その話だって、ひょっとしてもう知ってるんだろ」
辺りに人がいないのをいいことに、すぐそばにいる誰かに話しかけるような調子で不満をぶつけてから、また溜息が出た。
手当たり次第に八つ当たりでは、あまりに自分が情けない。
すずめたちが沈黙した一瞬後、ばさばさと飛び去っていく軽い羽音がして、頭上の枝が少し揺れた。
「左吉がまだ一緒にいるみたいだし、出会い頭に問答無用――ってことはないよな……」
文次郎もそのつもりで連れているという一年生の抑止力に期待してみようか。
林の向こう側で素早く見え隠れした虫捕り網にちらりと目が行く。
そして、深い溜息を吐いた。

「嫌な予感しかしなかったから、見つからないようにそろーっと通り過ぎちゃいましたけど」
「その対応で正解だ」
「なんかあったんですか? また誰かと戦いそびれたとか、活躍し損ねたとか」
「いや、……今回は、」
鬱憤をフルパワーの頭突きで晴らすのはやめた方がいい。気付かないうちに頭の骨にヒビが入って脳に内出血が起きる恐れがあるから非常に危険だ。
じゃなくて。
何を発散しようとしてそんなことを――と、この期に及んでしらばっくれるのは……さすがに無責任過ぎるだろう。
「たぶん、僕がやってることに苛立っておられるんだと思う」
「えっ!? じゃあ駄目ですよ、いま潮江先輩に会ったら命がないですよ」
沈鬱にぼそっと言う三木ヱ門を、久作は真剣な表情をして止めにかかる。満更冗談にも聞こえないところが何とも言えず、三木ヱ門は曖昧にかくかくと首を動かして、前方を透かし見た。
怖いからと言って逃げ出したら、いつまでとも知れずこのままだ。
予算絡みの各委員会の活動について重要な報告があると決死で申し立てをすれば、私情は別にして、会計委員長として話は聞いてくれるだろう――と思う。たとえそのあとで縊られるにしても。
「そうと分かっていても行かなきゃいけない時があるんだ」
「……その覚悟がおありなら骨は拾いません。ご武運を」
「落ちてるものはとりあえず拾ったほうが」
言いかけるきり丸の後頭部を久作がひっぱたいた音を効果音に、三木ヱ門は重い一歩を踏み出した。

一度に大量の漉き返し紙を作るのは慣れていないせいか、出来上がるのはあまり質の良くない厚ぼったい紙になってしまう。それに加えて墨の色が滲んでいるから、よく揉んで落とし紙にするくらいの用途しかない。
「だから今のところお試し価格で格安ですよ。保健委員会だってそれで消耗品代を節約できるし、損はしてないはずです」
「……そうなんだ」
「もっと薄くて上等なのが作れるようになったら、帳面にしたり懐紙にしたり市で乱太郎に似顔絵描きをしてもらったりお店から注文を取ってオリジナル包装紙を作ったり……、うふー」
目を銭の形に爛々と輝かせて事業展開の夢をみるきり丸を横目に、久作が「捕らぬ狸」とぼそっと呟いた。
狸と聞いて思い出した訳ではないが、雷蔵はこういう作業はあまり得意ではなさそうだとぼんやり考えつつ、三木ヱ門は保健委員会の収支報告書を頭の中でめくり直した。
生物委員会への"貸し"に付けた名目だろうと推測した「雀用薬餌代」、あれは図書委員会から買った落とし紙の代金だったのでは? 図書委員のきり丸がよその委員会の報告書を覗いているはずはないから、保健委員会が落とし紙代を消耗品代として計上していないことを知らず、ぺらっと喋ってしまった――という雰囲気を感じる。
……この辺りは、医務室に押し込めの伊作を追及する話題に加える必要がありそうだ。
その前に文次郎と合流しておきたい。今の話を先に知らせたいし、妙なわだかまりをあまり長々と引っ張りたくもない。
「ところで、ここに来る途中で潮江先輩を見なかったか?」
そう尋ねてみると、きり丸は聞いていなかったが、久作は後ろを振り返りながら「この先の倉庫の所でちらっと見ました」と言った。
「いや……倉庫と言うか、木の正面と言いますか」
「どういうことだ?」
「おでこ打ち付けてました」
左吉が隣でおろおろしながら引いてましたと、真面目な顔をして付け加える。

久作とにらめっこをするのも気詰まりで、強いて何でもないような表情を作りつつ肩を竦めてみせた。
「委員長を差し置いてする話じゃないな、それは」
だから答えないと言外に匂わせて口を結ぶと、久作は不満気な目付きをしたが、それ以上言い募ろうとするのは飲み込んだ。
「これは雑談だけど、紙は誰が買ったんだ?」
睨んでくる視線を避けてきり丸に目を向ける。
ちらっと久作を見てから、きり丸が答えた。
「主に保健委員会です」
「……保健って、そんなに紙が要るっけ」
「落とし紙用ですよ。裏表びっしり使った後の紙を漉き返しても、字を書くのには向かない黒ずんだ紙になっちゃうもんで」
「そりゃそうだろうな」
「混ぜ物をして白っぽくすることもできるけど、それに予算を使ったら本末転倒ですし」
写経に使った紙で作ればそれはそれで値がついたりするんですけどねー、と無邪気そうな顔をするきり丸を、今度は三木ヱ門が軽く睨む。
「買い手がつくからって偽の反魂紙なんか売ったら、バチが当たるぞ」
「しませんよお」

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