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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「わああぁ」
「やめろーっ!」
「あ、逃げる」
「捕まえてー!」
「よせ危ない離れ――ろっ!?」
生物委員たちと三木ヱ門と錯綜する声が一塊になって文次郎に体当たりした。
警告を聞く耳もあらばこそ、7人分の突進を受け止めた文次郎はさすがにひとたまりもなく突き倒されて、たちまちのうちに折り重なった人の下に圧し潰される。
ひらり――と緑の布が舞った。
いち早く飛び退って巻き添えを逃れた左吉は、もうもうと巻き起こった土埃が舞い落ちてくるその向こうの惨状を目にして、悲痛な声を上げた。
「潮江先輩!」
総重量五十貫は優に超えるだろう人の山の一番下で、わずかに覗く指の先が地面を掻く。
天辺に伏せていた一平がはっと顔を上げた。素早く膝立ちに体を起こすと抱えていた投網を放り上げ、空中でぱっと広がった網が地面へ落ちるのと同時に飛び降りる。
きいっ、とも、ぴいっ、とも聞こえる甲高い声が辺りに響いた。
「目標、確保しましたあっ!」
高らかな宣言と共に、もそもそ身動きする小猿を網ぐるみしっかりと胸に抱え込む。
「よくやった一平――」
「それより退いてよ! 潮江先輩が死んじゃう!」
「死な……ねえ……けど、どけ……重い」
積み重なる人の下の方から八左ヱ門が言いかけたのを遮って左吉が叫ぶと、窒息寸前の呻きが反論混じりに訴え、それで我に返った人山がわらわらと左右へ崩れた。


包みを持っていない方の手で頭や首をばたばたと払う文次郎の肩の上を、小人のような影が横切る。
「え、――え?」
何が起きたのか把握できないのと、この光景の既視感に囚われたのとで立ち竦んだ三木ヱ門の背後から、入り乱れた足音が聞こえてきた。
風を巻いて三木ヱ門の真横をすり抜けた、手に手に虫捕り網や投網を携えた生物委員の一団が、爪先立って旋回する文次郎へ向かってまっしぐらに突進する。
「きみこ、待て!」
孫兵が大声を飛ばす。
文次郎の頭上にある枝から落ちようとしていた蛇が、鉤型になってその場で止まる。
そうだあの先輩の動きはきみこに飛びかかられた時の小松田さんと同じだ――と三木ヱ門が気付いた瞬間、するすると文次郎の耳の辺りに奇妙な生き物が姿を現した。枝を仰いで鋭く尖った歯を剥き、ふしゃーっと威嚇の唸り声を上げる。
それに牽制されたのかあるじの命令に従っているのか、蛇はゆらゆらと頭を揺らしながらそこから動かない。
顔つきも声も猫に似ている見たこともない小さな動物は、蛇が襲って来ないのを確かめるとついと顔を伏せた。
指の長い手が文次郎の首筋をぺたりと掴む。
「何だ、何なんだこれ――」
「先輩!」
生物委員会に半拍遅れて三木ヱ門もだっと地面を蹴る。
しかし必死に伸ばした手が文次郎に届くより早く、耳まで裂けんばかりに大きく口を開いた小猿は、がぶりとうなじに噛み付いた。

「あ、田村先輩」
居たたまれない様子で視線をうろうろさせていた左吉が三木ヱ門に気付き、声を上げると、木と睨み合っていた文次郎が振り向いた。
目が合う前に、反射的に頭を下げた。自分の爪先をじっと見つめながら何から話すべきか少しの間あわあわして、無言でいる重苦しさの方が先に耐え難くなり、考えがまとまらないままぎくしゃくと言葉を押し出す。
「……団蔵を寄越してくださって、ありがとうございました。助かりました」
「そうか」
素早く答えが返って来る。
平板な口調だが、覚悟していたよりはだいぶ落ち着いているように聞こえて、三木ヱ門は戸惑った。かと言って、気が済むまで木に当たり散らして険が抜けた――という雰囲気でもない。
微妙な緊張感がぴりっと肌を刺す。
「それであの、団蔵から聞いたのですが……、食満先輩が、手拭いの包みを」
「ああ。お前に返しとけって、預かった」
目の端に見えている左吉の足が、すり足気味に少し後退した。
「さっき、」
言いかけた文次郎の声が喉に引っ掛かったように急にしゃがれ、それを強引に押し切って「渡しそびれた」と掠れ声で言う。
「――だから、まだ俺が持っている」
がさごそと衣擦れの音がする。懐か袂を探っているらしい。
「……今、渡しとくか?」
「あの!」
顔を上げるなら今だと、思い切って上体を起こす。
しかしそれと同時に、短く声を上げた文次郎が頭を振るようにしながら大きく身体を捻った。
「兵庫水軍水夫の間切です。お頭がいきなり"女には気をつけろ"とか言ってきたお陰で同僚にからかわれまくってマジ鬱陶しいんだけど蹴っていいかな。いいよな」

一日遅れのアナウンスですが、「夢十夜」第七話掲載しました。
原作間切は見た目がブリーチヘアのヤンキーっぽいだけで別に無愛想じゃないのに、当サイトではなぜか割と初期から口の悪いツンキャラ(デレがない)扱いです。どうしてだ。
ちょっと伊達な真似をしたせいで身投げ娘の霊(要反転)に魅入られただけで、孕ませた(要反転)のは間切でも、兵庫水軍の他の誰かでもないです。


本題とは関係ないけど私の脳内で実写化した義丸は「二重の垂れ目で下まつげバサバサのイタリア人顔」です。若い頃のシルベスター・スタローンかサッカー選手のアレッサンドロ・デル・ピエロか、もしくは元サッカー選手の本並健治さん系。
垂れ目・下まつげって漫画だと記号的な伊達男顔だけど、原作義丸は別に(以下略


しかし考えてどうなるものでもない。
「うわぁ」
地面の上にまだ青い葉が多く落ちている木の前へ来かかり、嫌な予感とともに幹を覗いて、思わず呻いた。
ものすごく機嫌の悪い迦楼羅天がその強靭なくちばしで渾身の一突きをして立ち去った後だと言われたら、信じるかもしれない。一体どんなぶつけ方をしたら人の額で木の幹を抉れるんだ?
「……まだこの近くに、」
いて欲しいような、いなくなっていて欲しいような。
足を緩めつつきょろきょろと周囲を見回す。少しずつ離れて並んでいる倉庫や格納庫の辺りに人影はなく、生物委員たちの声が遠く近く聞こえて来るだけだ。
その声に混ざって、どん、と重い音がした。
右手に見える倉庫を挟んだ反対側からばさばさと鳥が飛び立っていく。今回はすずめではなくカラスだったが、心なしか大慌てで羽ばたいている翼の先から、引っかかっていた葉っぱがひらひらと舞い落ちる。
「……いた……」
南無三。
合掌した心象の自分を心の中でひっぱたき、方向転換したがる爪先を無理やり蹴立てて、倉庫の方向へ舵を切る。
日陰になった板壁の前を全速力で走り、大回りしながら角を曲がって、裏手の方へ飛び出した。
木に片手をついて立っている文次郎が見えた。
その後ろで困り顔の左吉が右往左往している。


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