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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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同じように八左ヱ門の眉も寄った。文次郎のそれとは違い、不快や威圧ではなく不安と緊張が色濃く浮かんでいるが、口許は頑なに結ばれている。
「話したくないのか、話せないのか、どっちだ」
「言えません」
重ねての詰問にも、八左ヱ門は冷や汗を流しながら同じ言葉を繰り返す。
文次郎はうずくまっている三木ヱ門にちらっと目を落とした。頭の上の不穏な会話が聞こえているのかいないのか、未だ身動きしない。
「田村は各委員会が提出した収支報告書の不審な点を洗っていた。それから派生して色々と面倒な事になってるみてぇだが」
「……」
「生物委員会の所へも回っただろう。黙っているのなら、水練池の端でしていたのはその話だったと解釈するが、構わねえか」
「……」
八左ヱ門は無言を貫く。
そこから少し離れた所で小猿に怪我がないか確かめている一年生たちは、ようやく手のかかるいたずら者を捕まえたことにはしゃいでいて、上級生たちの異様な緊張感に気付く様子はない。
「こいつの調査に協力的な部外者がいるのは、会計委員会としちゃ有難い」
軽く溜息をついて文次郎は続ける。
「――が、田村には話せても俺には話せないってのは、どういうことだ」
「……」
「誰も彼も内緒、内緒ときやがる。……俺の知らない所で、一体何をしている」
「……それはヤキモチってやつです」
低く八左ヱ門が言った瞬間、電光石火で文次郎の手がその襟元へ伸びた。

「オニタケ忍者隊首領の春牧行者です。新兵器の開発費カットを要求してきた玉三郎が早すぎた天才と喧嘩になったので2人とも減給することにしました」

「夢十夜」八話目掲載しました。
早すぎた天才が作ったのはスタングレネード的なものです。結構単純な原理でできているので、自作しようと思えばできるらしい。出来具合によっては所持するだけでも犯罪になるからお勧めしませんが。


連休中にゲットした三方六にうつつを抜かして更新のお知らせを忘れていまし た。
デパートで時々開催する「北海道展」の異常な吸引力に導かれて毎回たこわさと帆立わさに散財するわたくし。

実家ご近所の小樽出身のおばちゃんがお正月にお裾分けしてくださる「ニシンと大根の酒粕漬け」(正式な名前はなんだろう)の乳酸菌が効いてる酸っぱさが好きでした。先年おばちゃんが急逝してしまわれたので、もう二度と会えないお味なのが寂しい。

「本当は分かっていらっしゃるんでしょう?」
そう指摘されてしきりに瞬きする文次郎に八左ヱ門はずいと膝行して詰め寄り、深く頭を垂れている三木ヱ門を指差す。
「先輩が首を噛まれたと思って心臓が縮み上がったのが、飾り結びのお陰で無傷だったから、緊張の糸が切れて田村がへたってるってことくらい。何故とぼけておられるんですか」
「……木綿の手拭いは貴重品だ」
「だからと言って、手拭い一本と慕わしいひとの命を秤にかける馬鹿がいますか。田村がそんなやつじゃないのは潮江先輩こそよくご存知でしょうに。――なんで目が泳ぐんですか」
「いや……竹谷、お前、まだ声が酷ぇな」
「山狩りで喉が嗄れているだけです。先刻だって田村は――」
勢いで喋りかけた言葉をはっと飲み込んだ八左ヱ門の喉が、カエルの鳴き声のような音を立てる。
五年生に説教を浴びて憮然としていた文次郎がはたと瞬きをやめた。
「なんでそこで止める。気になるじゃねえか」
いつになく下がっていた眉の両端が吊り上がり、真っ直ぐ八左ヱ門を睨む目には、底光する剣呑な光が宿る。
立場は一瞬で入れ替わった。
八左ヱ門はしどろもどろに言葉を濁しつつ体を引き、今度は険相の文次郎が身を乗り出して、僅かに開いた距離を詰める。
「さっき、ってのは水練池か。何をした」
「……野合ではないです」
「そんな事は分かってんだよ。あそこで田村と何を話した」
「言えません」
びびりながらも八左ヱ門が即答し、文次郎の眉根がぎりっと寄る。

白塗りを落としても、髪を結い直しても、首に結んだままになっていた「ふくら雀」が解けている。
「自分じゃ見えないからよく分からんが、アレは俺の首を噛むつもりで"すずめ"を食い千切ったんだろう」
ひょいと一平の抱える小猿を指した文次郎の手がそのまま地面を探り、体の下敷きになっていた三木ヱ門の手拭いを引っ張り出した。
端に四菱の型押しをした地味な色目の手拭いは、錐か何かを突き刺して振り回したようにざっくりと裂け、大きな穴が空いていた。
「お陰で助かったが……駄目にしちまって、すまねえな」
「はあ。……はあ……あー……」
「これじゃ繕い様もねえか。新しいのが俺の部屋にあるから、悪いが当座はそれを――おい」
「……あー……」
「……そんなに気に入りの手拭いだったのか?」
そのまま地面に溶け込みそうなほどにへたり込んだ三木ヱ門を見て、文次郎がいささかうろたえたように丸まった背中を叩く。
土に額をすりつけて脱力したまま、三木ヱ門は呟いた。
「……良かったぁ」
「あん?」
「噛まれてなくて、良かった……」
「いや、噛まれたぞ? お前の手拭いが――」
「噛み合わねえ!!」
二人の横で黙念と正座し拝聴していた八左ヱ門が耐えかねたように叫んだ。

一年生が下り孫兵が下り、長ものの虫捕り網が邪魔をしてじたばたする八左ヱ門とその下で身動きしかねている三木ヱ門を振り落として、蝶の標本さながらに地面にへばりついていた文次郎がずるずる起き上がる。
「あー……、ワタ吹くかと思った」
みぞおちを撫でながらぼそりとこぼし、埃だらけの顔を小さく歪めた。
虎若と三治郎、孫次郎は小猿を抱えた一平に駆け寄ってわいわいと取り囲み、孫兵は幹を伝って降りて来たきみこの回収に走っている。そちらをひと回り眺めてから、文次郎は緊張の面持ちでかしこまる八左エ門をじろりと睨み、「これはどういう状況だ?」と口調を強くした。
「珍しい猿が逃げたってのは知っているが、一体この馬鹿騒ぎは、」
「そんなことより先輩!」
文次郎が言い終わるより先に大きな声を上げたのは、説明しあぐねて言葉に詰まった八左ヱ門ではなく、ぐしゃぐしゃに髪を乱した三木ヱ門だった。虚を突かれて一瞬動きが止まった文次郎に飛びつき膝立ちになって、しゃにむにうなじを覗き込もうとする。
「おい、何だよ!?」
慌てて後ろに手をつき倒れるのを堪えた文次郎が頭を回そうとすると、三木ヱ門はそれを両手で抑え付けて、首を折らんばかりの勢いで前へ引き倒した。
「きず、傷は!? 噛まれた跡はどこです!?」
「痛てぇ! 落ち着け田村、離せ、」
「だって早く手当しないと、破傷風にでもなったら、僕は!」
「大丈夫だっての! 噛まれてねえ、から」
「……え? あれ?」
そう言われて、三木ヱ門はやや冷静になってうなじの辺りを検分する。
俯いた頭の後ろで、無造作に括り上げた髪がぴょこぴょこと揺れている。さっぱりと晒した首周りは、目を近付けて丹念に見ても、確かに血の滲むような新しい傷はない。
「……あ」
すずめがいない。

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