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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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聞こえた言葉の意味が分からない。
目を見開いたまま、三木ヱ門は固まった。
吸った息の吐き出し方を突然忘れた。行き場を見失った空気が喉を塞いで声も出ない。あわあわする三木ヱ門からやや目を逸らしつつ、額にかかる前髪を無闇に手櫛で掻き回す文次郎の渋面に、少しの躊躇いの色が加わる。
「それとも俺に、お前を嫌わせたいのか」
「そんなこと!」
大声が出た。
固唾を呑んで見守っていた一年生たちがヒュッと飛び上がり、それから、そろそろと会計委員長の方へ視線を移動させる。
「……ある筈が、ありません」
蚊の鳴くような声で三木ヱ門が続けると、観察されているのを知ってか知らずか、手のひらでぐいと頬を擦って文次郎は口を曲げた。
「生物委員会の話とやらは、いずれ穏当なもんじゃねえんだろう」
鋭い目を向けられた八左ヱ門が、警策で打たれたようにはっと姿勢を正す。
「何がどうなってるのかさっぱり分からねえが、そういう危ない話をお前が手前の責任で呑み込むと駄々を捏ねるなら、その責任の中身も駄々もひっくるめて俺がお前の行動に責任を持つ。もしもその話の為にお前に何か害が及ぶことがあるならば、それを受けるのは、俺だ」
きっぱりと言い切って、文次郎はじろりと三木ヱ門と八左ヱ門を睨み回す。その勢いに圧倒されて言葉を失っていた三木ヱ門はややあって我に返り、慌ててぶんぶんと首を振った。
「駄目です、それじゃ意味がない――」
「うるせえ。俺はな、」
一言で反論を切り捨てた文次郎が、荒っぽい仕草で自分の胸を指す。
「お前の先輩で、会計委員長だ」
まるで喧嘩腰の口調で言った。

ブログ連載を#271~#320までサイトに掲載しました。
現時点では起承転結の結に入っています。こんなに長くなるとは思っていなかった ともう既に何回か言っている気がする。
最初は探偵役の三木ヱ門が学園を巡りつつ謎解きをする気軽なミステリもどきにする予定でした。
今でもその基本は変わっていないものの、続けているうちにストーリーに潜ませたいテーマが多重化してどんどん冗長になった駄目なパターンだこれ。
暑苦しく書き込み過ぎた部分は完結したら編集し直すつもりではいるのですが、個別のエピソード同士をロングパスで繋いだりしている部分が結構あって、改めて見るとばっさり削れる部分が案外少なかったのでやる前から挫けそう。


ネットでスポーツニュースを漁っていたら、一瞬だけヴィッセル神戸にも在籍した元トルコ代表サッカー選手のイルハンがフィギュアスケートの大会にペアで出場したのを知って ふへー。
膝を痛めて30そこそこでサッカーを引退したのに、足腰にかかる負担が半端ない競技に転向て大丈夫なのか。



競技歴3年の38歳で184cm80kg
運動神経抜群でも年齢とヘビーウエイトはネックになりそうなもんだけど、案外ちゃんと滑れてる んでしょうかこれは。
少し触れたら弾け飛びそうに精一杯気を張って顔を上げ続ける三木ヱ門に、何か言おうとしたのを途中で止めて、文次郎はきつく口を結んだ。
どうしてだか地面に座り込んだままの上級生たちは何やら不穏な事態になっているようだと、今になって気付いた一年生たちがこわごわ窺っている。見える位置にいる筈のそれさえ視界に入らず一心に正面だけを見据える三木ヱ門の目の前で、文次郎はそびやかしていた肩が下がるほど、深々と溜息を吐いた。
――ああ。
さっき打たれた心臓がどきんと痛んだ。表情を変えないように気を付けながら、三木ヱ門は膝の上に置いた手をこっそり握り締めた。
失望された。
当たり前だ。涼しい顔で嘘を吐いて、しかも開き直ったんだから。
でも、これでいい。委員長が何も知らなければ、会計委員会は何の憂いもなく、予算会議や徹夜の決算や他の委員会からの苦情に追われる日々を過ごしていられる。潮江先輩に見限られた自分は、もう今まで通りに接してもらうことはできないだろうけれど。
「田村」
無理矢理抑え込んだ感情の光を両目に湛え、一度ぎゅっと口を尖らせてから、文次郎が呼んだ。
――怒っていらっしゃる。当然だよな。殴られないだけ僥倖だ。
はい、と返事をしたつもりの自分の声が、自分の耳に聞こえない。自覚以上に茫然自失しているのかなと他人事のように考える。教科も優秀、実技も得意な忍術学園のアイドルが、なんて体たらく。
「お前を嫌いになるのは、俺には難しい」
ぼんやりと空中を漂う煙にでもなったような心地でふわふわしている頭に、苦渋の滲む声がさっくりと斬り込んだ。
「……ああ?」
前触れなしに鼻先を叩かれたような純粋な驚愕が文次郎の顔に浮かんだ。
次の瞬間にも拳が飛んでくるかと三木ヱ門は内心で身構えたが、驚きが怒りを余程大きく超えたらしい。まじまじと三木ヱ門を見詰めるばかりの文次郎は睫毛の一本も動かさない。
すうっと息を吸い、努力して背筋を伸ばして、三木ヱ門は続けた。
「生物委員会が収支報告書に不審な記述をしてきた理由を、聞きました。それを聞いた上で私は、生物委員会の報告書に不正事項はなかった、と申し上げます」
背後で八左ヱ門が身じろいだ。その気配を感じつつ、三木ヱ門はぐっと顎を引いて文次郎を見詰め返した。
生物委員会の予算のほとんどをひとりで食い尽くした預かり物の小猿の、殿上人の間をたらい回しにされてきたという出自を知ったら、不測の事態が起きたとき見知らぬ誰かの体面の為に首を刎ねられることになる。
知らなければ、ただ「そう言えば変な猿がいたな」と思うだけで済む。
文次郎にそれを話すかと、水練池で八左ヱ門は言った。
話したければ話すといい。万一の場合に会計委員長の首を飛ばしてもいいならば、どうぞ喋れ、と。
「共犯だと言っておいて、その報告で俺が納得すると思うのか」
薄く口を開いた文次郎が掠れた声で言う。やっと一度だけ瞬きした目に、遅れ馳せの怒気が揺らめく。
「竹谷先輩は既に、会計委員に全てを話しています。だからもう言うことはありません。会計委員長に真実が伝わらない責任は、知っていて喋らない私にあります」
でも、私は喋りません。
殴られても蹴られても、嫌われても軽蔑されても、喋りません。

「この野郎――」
「待って下さい!」
がばっと身を起こした三木ヱ門が2人の間へ割って入った。
八左ヱ門を背中で庇って文次郎と向かい合う形になった三木ヱ門の胸を、八左ヱ門の胸倉を掴み上げる寸前だった手が、勢い余って激しく打った。
骨と骨がぶつかる嫌な音がした。
「あ、」
「けふっ」
熱した鉄にでも触れたかのように、文次郎は素早く翻した手をもう片方の手でぱっと押さえ、心臓の上を叩かれた三木ヱ門は空咳をして少し姿勢を崩す。
「すまん」
よろけた三木ヱ門を反射的に支えた八左ヱ門と、ぜいぜいと喉を鳴らして胸を撫でる三木ヱ門を交互に見て、気まずそうに文次郎が謝る。
慌てて首を振った三木ヱ門は大急ぎで口を開いた。
「大丈夫で、すそれより、言えないと、竹谷先輩、が仰るのは私、が、」
「田村落ち着け。深呼吸」
気が急くのと胸骨が軋みそうになるのとで、おかしな文節で早口に喋る三木ヱ門を見かねて、八左ヱ門が背中をさする。それを見ていた文次郎は一瞬唇を噛み、その無意識の仕草を恥じるように、すぐに口角を緩めた。
「何を言いたいのか分からんが、つまりお前は竹谷を庇うのか」
またそういうことを――と八左ヱ門が苦い表情になりかけるのを制し、三木ヱ門はしっかり顔を上げて、怖い目をする文次郎と向き合った。
「潮江先輩に話の内容を言えないのは、私が竹谷先輩と共犯関係だから、です」

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