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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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内緒話がしたいなら、それこそふたり揃って蔵の中へこもればいい。
「それは」
文次郎に向けた兵助の目は泳がない。しかしその代わり一点を見据えたまま動かず、その視線の先に焦点が合っているようでもない。
「中に入ってしまうと誰かが焔硝蔵へ来ても分からないから、私が外に残って、」
「だとしてもだ」
さっくりと文次郎が兵助の反論を遮る。
「鉢屋がそれまでと違う変装をしていれば、蔵の外でお前と喋っていたってそれが鉢屋だと遠目には分からない。その暇がなかった、は通らねえぞ。田村が焔硝蔵に着くまでは時間があったし、あいつは変装だけじゃなく早変わりも得意だろう。そもそも、どうして外から来る者を警戒する必要がある」
監査に入った先で不審点を指摘する時さながらに、文次郎は理詰めにびしびしと畳み掛ける。言い返す糸口を掴めない兵助は焦りと緊張で口が乾くのか、しきりに唇を舐めている。
理や知をすっ飛ばしてすぐに手が出るような印象が強い――そして実際そんな面もある――けど、潮江先輩は決して力押し一辺倒の人物ではない、と三木ヱ門は委員長の横顔を眺めつつ改めて思った。六年生になる頃は自分もあんなふうになれるのかなと、団蔵が考え込んでいたっけ。
「田村」
「はいっ」
不意に名前を呼ばれたのに驚いて、予想外に大きい声が出た。呼んだ文次郎が一瞬止まり、「良い返事だ」と冗談とも本気ともつかないように褒める。
「お前は行き慣れているから知っているだろう。焔硝蔵の出入りは厳重だな?」
「はい。普段は施錠されているので土井先生か久々知先輩に鍵を開けていただいた上で、中に入るには必ず一名以上の火薬委員の立会が必要です」
そうでなければ、火薬委員に頼んで必要な分だけの火薬を取り出して貰う。

思わぬところから反応が来た伊作があわあわする。
「えーと、うん、来たよ、来たけど心配ない。もう部屋に帰ったし」
来たどころか並んで座って居眠りして、その前は掴み合い寸前の口論までしているのに、兵助はついさっきまで雷蔵と一緒にいたことをまるで覚えていないらしい。伊作のあやふやな言い方で、かえって不安が増したような顔になる。
「それでも、うわ言を言うって相当でしょう。発熱ですか。毒にでも中ったんですか」
「だーいじょうぶだってば。保健委員長の僕が言うんだから」
むずかる子供をあやすような調子で伊作が押し切る。疑問への説明には全くなっていないが、兵助は「……善法寺先輩がそう仰るなら」と、不承げな色は残しながらも引き下がった。
「偽風邪の話は後だ。久々知が伊助だと言った鉢屋と焔硝蔵で何をしていた。――いや、違うな」
火薬委員ではない、田村や仙蔵のように火器火薬の類を得手にしているのでもない鉢屋が、なんで放課後の焔硝蔵にいた。
切り口を変えた文次郎の質問を聞いた途端、兵助の顔色が変わった。
「食草園で私に会った鉢屋先輩が、私が予算関連の不審点を嗅ぎ回っていると久々知先輩に伝えに行ったのではありませんか?」
食草園から焔硝蔵へ向かう途中で三木ヱ門は清八に出くわした。そこでのやり取りに時間を食ったから、あとから発った三郎は余裕を持って先回りできたはずだ。しかし、そこに三郎がいると三木ヱ門にばれてはまずいので、蔵の中に入ったのでは――
三木ヱ門が推論を述べると、文次郎は自分の頬を指先でちょっと摘んで仙蔵を見た。
「勿論それもあるんだろうが――鉢屋の今日の顔は竹谷だったよな」
「ああ。おかげで役に立った」
「言い方が怖えぇよ。で、いつもの鉢屋は不破の顔だが、あいつは変装名人だ。田村より先に焔硝蔵へ行ったとして、そこでまた他の誰かに顔を変えておけば、後から来た田村と顔を合わせるのに不都合はねえ筈だ」
それなのに、わざわざ蔵の中と外に分かれて話すというのは不自然だ。

プラスお知らせ。
ブログ連載を#371-400までサイトに掲載しました。完結まで越年決定でっさ。


資料は引き続き「特別展 戦国の城と馬」(刊/(財)馬事文化財団 馬の博物館)より。
しまった貸出期間過ぎてる…。

【馬の積載能力】
・在来種の走力は19世紀末で40km/h程度。低速長距離走行向き。
・物資はおよそ100斤(60kg)、米穀類は150斤(90kg)が法令限度での目安(「延喜式」より)。米1俵=3斗で45kg程度。
・遠江国の蒲御厨(かばのみくりや)では、銭貨24貫(90kg)前後と規定。
※甲冑の重さ+弓・鉄砲・刀などの装備の重量+人の体重=100kg超くらい
※在来種の体重は300kg程度
※戦場用に調教した軍馬でも騎馬突撃は厳しそう

【税としての馬】
・郷村の税役として、馬1頭+陣夫ひとり/貫高40貫(1550年代の小田原北条氏領内)
・同上で、馬1頭+陣夫ひとり/俵高200俵。馬がいない時は1頭分につき人間ふたりを充てる(1580年代の徳川領内:「御庫本古文書纂」より)
・北条氏の軍役では兵士ひとり/5貫文、騎馬1頭/15貫文
※加藤村のような輸送力に長けた駄載馬を数多く持っていた郷村は、他の所より馬の負担数が多かった可能性もある?
※第二次大戦の時には日本郵船が会社所有の船を軍にがんがん持って行かれてばんばん沈められた
※ので日本郵船歴史博物館の展示物の恨み骨髄に入りっぷりが凄いらしい

【馬の値段】
・松平家忠が1592年7月に江戸で買った黒馬1頭は金1両(=銭2貫文くらい)と銭500文
・11月4日に上代(千葉県旭市)近くの鏑木へ馬を見に行く(馬の市がたっていた?)
・11月9日に籾俵200俵で河原毛の馬を買う
・翌年4月11日に兵粮80俵で栗毛馬を買う
・4月13日に45俵で青馬を買う
・5月26日に籾100俵と脇差で常陸産の栗毛馬を買う
※家忠は知行一万石の日記好きな大名
※本人の乗馬用のほか贈答用もあるので全体的にお値段高め
・1574年の武蔵国鉢形城(城主・北条氏邦)では、小身の一騎合の衆に「給恩の3分の1程度の馬に乗るように」と命令
※これを馬の底値と考えていいらしいものの給恩(年収? 月収?)がいくらなのか不明

【馬の産地】
・強い・大きい・早い良馬は奥羽地方産が定番だったそう
・馬の輸送は主に馬が自力でぽくぽく
・上洛する時は奥羽地方~北陸道~京都の北回りルート
・奥州伊達氏のドル箱
※北関東の「群馬」は律令制の頃の郡名「くるま(車)」の転訛なのであまり馬と関係ない
※でも2004年まで地方競馬があった名残で馬事公苑がある

【馬の呪い】
のろいではなくまじない
・忍城本丸と諏訪曲輪の間に作られた水堀から牡馬の頭骨が出土
・下顎部は欠損、頭骨は上下逆に置かれ、橋の橋脚材に打ち抜かれていた(橋がかけられたのは15世紀末~16世紀ごろ)
・江戸城でも1636年の外堀普請の際に設置された用水施設から頭骨が発見されている
・金沢城本丸西側に隣接する本丸附段の用水遺構(水溜か池、1621~1631年の間のもの)から、上下逆に置かれた馬の頭骨が出土
※「水場に馬の頭骨を上下逆さまにして設置」は数例あるものの、水にまつわる儀式の跡らしい他の意味は不詳
※忍城は「のぼうの城」で有名なあれです。水攻めに耐えたのは馬の加護だったりして
※コミックス54巻の「逆さまの呪力」の話とも繋がりがあるかも知れない

野間馬と道産子と触れ合えるという馬の博物館(横浜市中区根岸台)にすごく行ってみたくなりました。来年は午年だし。
上でちらっと書いた日本郵船歴史博物館も横浜市中区海岸通にあります。

災難に遭いやすい、そして影が薄い、とふたつながらに不運をかこつ数馬の意外な一面を見た気がして、三木ヱ門はふと、閉じた出入口の方を気にしている伊作に目を留めた。
そうか。数馬は左門と同じ三年生だけど、保健委員会では上から二番目なんだっけ。
「あのさ、僕はまだこの場にいないといけないかな。廊下の後始末をしたいんだけど」
訊問の対象は久々知に移ったなら僕はもうお役御免でいいよね? と、伊作は目に見えてそわそわし始めた。
患者が使ったお椀を熱湯消毒するくらいだから、廊下にも消毒液を撒くくらいのことはするのだろう。しかし向こうは数馬がうまく指揮をするのではないですか、と三木ヱ門が言おうとするのに先んじて、文次郎がぴしりと言った。
「居ろ」
「えー」
「えー、じゃな……」
言いさして、文次郎はコンコンと乾いた咳をした。腰を浮かせる三木ヱ門を片手を上げて制し、その手で自分の首を指し「これの話が残っている」と言う。
「頸動脈?」
「喉だ、のど。不破が居眠りする前に外のやつらは本当に風邪なのかと怪しんでたのを、まさか忘れてねえだろうな」
そういえばそんな会話があった。廊下に溜まる患者の群れを覗き見た雷蔵にそう尋ねられて、伊作はちょんとつついた過冷却水のように、見る間に凍りついてしまったのだ。
「あれは――だけど、不破のうわ言だろ。風邪っぽいけど不破にはそう見えなかったってだけで」
「え、うわ言なんて言うほど雷蔵のやつ具合が悪いんですか。あいつも医務室に来たんですか?」
伊作の抗弁に兵助が食いついた。

お前を信用している――という言葉に甘えて色々と割愛し過ぎだろうかと、その反応に少し不安になる。
「怒ってないぞ」
「ふぇっ」
変な声を上げてびくっと体が跳ねた三木ヱ門をよそに、仙蔵はにわかに渋面になった文次郎に「そうだろう?」と同意を促す。
「そんなもんいちいち言うことじゃねえ」
「へえ。以心伝心の自信があるのか」
「……お前、本当にもう帰れよ」
うんざりした様子で文次郎が呻く。仙蔵が居座るのは真相解明にかかる知的好奇心なのか単なる野次馬なのか、あるいは同室の同級生をからかい倒したいだけなのか、三木ヱ門にも今ひとつ分からなくなってきた。
その時、薬湯待ち患者は出入り禁止で閉め切っていた出入口の障子戸ががたがたと開いた。
「伊作先輩ー。みんな、薬を飲み終わりましたー」
戸口からは衝立のこちら側にいる伊作は見えない。その姿を探すように数馬の声が大きく呼びかける。
伊作はお盆を抱えたまま、衝立の陰からひょいと首を突き出した。
「ご苦労さま。使ったお椀はそのまま井戸へ持って行って、よく洗っておいてくれ」
「熱湯消毒もしますか?」
「うん。そうして」
「分かりました」
歯切れのいい返事の後にもう一度がたがた戸の閉まる音がして、数馬が廊下で下級生たちに指示を出しているらしい声がぼそぼそと聞こえて来る。
しっかりしている。

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