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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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聞き終えた兵助が「え」と声を漏らし、はたりと瞬く。
長い睫毛の先が文次郎に向いた。
大きく開いた目に浮かぶ色が、先程までと少し違う。
「何を吹き込んだ、仙蔵」
「んっふふふ」
「久々知」
悪い予感しかしない文次郎が警戒の目を向けると、いたずらめいた表情の仙蔵は含み笑いするだけで答えず、それならと矛先を変えられた兵助は視線を避けるように片手で顔を覆った。
「いえ……、何があっても、潮江先輩は仰ぐべき先輩だということを、私は承知していますから」
「仙蔵!」
睨まれるのを厭うたのではなく文次郎のために嘆いてくれたらしい。凄い勢いで向き直る文次郎に、仙蔵は涼し気に笑いかけた。
「私はこのへんで席を外そう。邪魔したな」
ひょいと立ち上がり、「ついでに」と一同を見回す。
「あまり大きな声を出さないで話をして貰えるとありがたい。ここは医務室だ。そうだろう、伊作?」
「うん?」
言われるまでもない事実に念を押されて訝しげに伊作が首をひねる。
確かにここは医務室で、騒がしくするのはご法度ではあるが、今のところ安静をとっている患者はいないから仙蔵が改めて言うほどのことではない。
「大声を出すと驚いてしまうからな」
ちらっと出入口の方を見て、仙蔵はどことはなしに意味有りげな言い方で言う。

却下につぐ却下をかいくぐって少しでも予算を確保したいという切実な理由と、ささやかな反骨と、少しの意趣返し。いざとなれば文次郎の頭越しに学園長決済という奥の手がある三郎は、遊び心と冒険心だろうか。
本当のところ、ひとかたならず火薬委員の世話になっている三木ヱ門としては、いかな会計委員長の意見と言えど「大した仕事もない――」には賛同しがたい。……と思ったらその場で意見できる強さを身につけなくちゃ。
「そう意固地になるな、久々知」
恐るべきすずめの間者がこの辺りの話も運んで来ていたのか、それとも単に強張る兵助の緊張を緩めてやろうと親切心を発揮したのか、仙蔵がずいっと膝を乗り出した。
目を瞠ったままそちらへ顔を振り向けた兵助が若干身を引く。
「文次郎にお前の思うところを言ってやれ。この石頭は"察する"なんて繊細な芸当はできん。言われなきゃ気付かんのだ」
「……言い分はあります。ありますが、先輩からすれば聞く価値もない理由です。話すまでもない」
「それは――」
「それは俺が判断することだ」
訳知り顔に助言をしようとする仙蔵より先に文次郎が言った。
「説明できるような理由があるなら、何であろうと聞く。聞いた上でやっぱりアホかと思ったらそう言う。そうでなければ、」
こちらが納得せざるをえないような理が、少しはあったならば。
「――その時は、善処する」
「玉虫色の言葉だな」
そう茶々を入れて文次郎に睨まれた仙蔵は、もうひと膝ぶん兵助に近寄ると、警戒する兵助に小声でぼそぼそと何か告げた。

行事ネタの戯話を掲載しました。
25日に間に合いませんでしたヴヴァー。
突貫作業でアップにこぎつけたのは26日午前4時でした(4時間後には出勤)。

少しずつ時系列が前後する短いエピソードを並べて群像劇っぽくしようと思って書き始めたら、ファイルサイズ換算で通常の「戯話」の約5倍に膨れ上がっていたという。
25日の前から10日くらいかけてアドベントカレンダー風に毎日更新にすればよかったなあと思った時は後の祭りでした。クリスマス要素と年末要素が交じり合わずに分離した構成力の無さが憎い。

トナカイはアイヌ語の「トゥナッカイ」(tunaxkay)に由来する日本名とウィキペディア先生が言ってましたので、行動はふざけてますけども三郎は別にふざけて言っているわけではありません。
雷蔵と久作のこんがらがったセリフは一文字抜かしで意味が分かります。


学生の時になぜかイブに部活の後輩どもと闇鍋をしたことがあり、大変カオスなことになりました。
「食べられるものを入れる」ルールだけは守られたものの、カレーパンが投入された以降は豆腐もミズダコもミカンも桜餅もチーズ蒸しパンもこんにゃくゼリーも全部全部カレー風味に染まって、口に入れてかじってみるまで完全に正体不明に。
カレー味はあらゆる食材のにおいと風味を駆逐するのである意味闇鍋のベースにはおすすめ。
でも闇鍋自体はお勧めしない。
文次郎が挙げ連ねた推論を認めるような言葉を兵助はまだ言っていない。見るからにうちしおれて肩を落としている姿は言葉よりも雄弁だが、それでも頑なに口を結んだままなのは、反抗的と言うほど刺々しくはないものの、会計委員長に対するせめてもの意地であるようだった。
火薬委員会委員長代理が"落ちた"のを確信して、文次郎は無言の兵助を掬い上げるような目でじろりと睨んだ。
「会計の目を盗んで予算をピンハネしようとは大した度胸だが、その割には随分とやり方が杜撰だったな」
否定も肯定もせず兵助は黙っている。睨み返すでもなく、最初に三木ヱ門が衝立の内側を覗いた時のように、見開いた目を瞬きもせずにじっと文次郎と見据えている。
三木ヱ門にはその態度が、この事態に関して思うところはありますがあなたには敢えて言いません――という、沈黙による表明にも見えた。
予算会議のたびに大揉めに揉め、その挙句に支給額を申請額の八掛けか七掛けまで無理矢理引き下げられるのにうんざりして、会計に報告せず自分たちの裁量だけで使える予算があればいいのにと考えたのは本当だろう。しかし以前、文次郎が「大した仕事も無いくせに予算だけはふんだくっていきやがる」と火薬委員会を軽んじる発言をしたのを、三木ヱ門は覚えている。
――潮江先輩に一泡吹かせてやろうって意図も、もしかすると少しくらいあったのかな。

その話を裏返せば、火薬委員以外の生徒は自由な出入りができない。
そして、火薬委員でも一・二年生の伊助や三郎次、四年生ながら編入生のタカ丸だけでは、焔硝蔵の開錠もできない。
人目に触れては都合が悪いものをこっそり隠しておくには、兵助にとってうってつけの場所だ。
「同じ企みを共有して協力し合っているなら、鉢屋にとっても、だ」
「――あ。"つづら代"……」
文次郎の言葉に触発されて三木ヱ門が口走ると、ひゅっと息を吸い込んだ兵助が薄く唇を噛んだ。
つづら代や鳥の子玉代として空計上した予算は手元に残る。それは手形や小切手ではなく現金で、その大部分は小銭だから、いざ隠すとなると重いしかさばるという物理的な問題がある。
焔硝蔵の隅にそれを入れておく箱なりつづらなりを置いておけば、兵助は委員会の役目があるような顔をして、三郎はその兵助に用事があるような振りをして、周囲に怪しまれることなく焔硝蔵に出入りしこつこつと蓄財に励むことができる。
「伊助」の三郎は兵助に急を知らせるついでに、そこに保管してある"裏予算"を確かめていた――
「推測を重ねるばっかりで今のところは確とした証しはねえが、現時点から会計委員会が監査に入るまでの間にお前か土井先生が焔硝蔵に出入りしたら、それは証拠隠滅を図ったものと見做す」
「それでは委員会の仕事ができません。土井先生は授業でも火薬を使われます」
「この訊問が終わったらすぐに監査にうつる。お前が立ち会うのは勿論構わない」
だから心配するなと口の端を吊り上げてみせる文次郎の前で、ぴんと背中を強張らせた兵助が、次の瞬間へなへなと崩れるように肩を落とした。

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