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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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薬種の……と、続けようとした声が睡魔に引っ張られて尻すぼみに低く沈む。
「ええと、」
三木ヱ門と左吉は顔を見合わせた。同じことを考えているようだとお互いの表情から当たりをつけ、今度は左吉が言葉を補う。
「薬の原料を今までよりも安く買える伝手が出来たのなら、保健委員会が購入費として申請した予算も再検討する。……ということで、いいですか」
確認された文次郎がもう一度頷く。そして小さく笑った――ように見えた。
テストの解答にマルを貰ったとばかりに、やや勢い込んで左吉が提案する。
「今後見込める洗顔料の販売収益も、提出して頂いたほうが宜しいのでは」
「うん。……でも、それは後、でいい」
まだ売り物になるか分からない、と実験に使われた自分の頬に触れながら、文次郎はやんわりそれを退けた。
三木ヱ門はふと、自分の胸の奥でかたんと何かが嵌まる音を聞いた。
図書委員会が売れる品質のものを作ろうと試作している漉返紙は落とし紙として保健委員会に売っているだけで今はまだほとんど利益が出ていないけれど、それも報告しないといけませんかと力む久作に相対した時、三木ヱ門は困った。その判断は自分では致しかねると言うだけではなく、今後売り物にできるようなものができるかどうか分からないうちに利益見込みとして計上してしまうのは早計だ、と思ったからで――その判断は合っていたらしい。
委員長と同じ判断が、自分の考えで出来ていた。


ブログ連載を#401-420までサイトに掲載しました。
#500…までには…終わるかなあ…。ついでにトップページの下の方で「実検場」開通しました。


この記事のタイトルは今年の全国高校サッカー選手権大会のキャッチフレーズなんですが、これだと国立競技場が物理的に無くなっちゃうようにも聞こえる気がする。


以下はぐだぐだしい高校サッカー語りになるので続きへ。


うさぎの目で伊作はしばしば瞬きをして、首を傾げた。
「文次郎、死んだ?」
縁起でもないことを言う。
「……で、ない」
律義に答えて、ぎりぎりと文次郎が頭を起こす。舌がこんにゃくに化けてしまったかのように喋りづらそうにしながら、伊作は苦労して言葉を並べる。
「僕がとがめらえう――咎められる――のは、報告書を、てけ……適当に書いたこと、だけ、って聞こえた」
「そう言った」
「なんで?」
「他の、事は、会計の、管轄じゃ、ない」
「でも、だあっててくえうわけでも、ない?」
「埒外。黙るか、吐くか、は、てめえで、決めろ」
長く話せば舌がもつれると承知の文次郎は言葉を短く切っているものの、それがもどかしいのか、喋りながら軽く握った拳で頬を小突いている。ふたりのやり取りを聞いている方は聞いている方で、またじれったい。
「収支報告書の記載不備は検めるけれど、善法寺先輩がなさった諸々を我々会計委員会が全学に向けて告発することはない――と、そういうことですよね」
のたくたした会話を三木ヱ門がまとめて言うと、文次郎は珍しく「うん」とこっくりした。
まるで団蔵がするような仕草をするということは、気力を保ってはいるが相当に眠いようだ。はらはらする三木ヱ門と左吉をよそに乱暴に目をこすると、茫洋とした視線を伊作に向けて、言う。
「それと、予算申請」

「諸々の」
それだけ言って文次郎はぐっと口を閉じ、しかめっ面になりながらもう一度開く。
「事情を」
一呼吸。
「勘案して」
一呼吸。
「も、」
一呼吸。
「お前の所業は看過できない」
そこは早口で言い切った。文次郎は三木ヱ門にゆらりと赤い目を向け、この一件で明らかになった事例を挙げろと言う。
「生物委員会の不正への加担、それを盾にしての竹谷先輩に対する強請行為、依頼された薬の不備の隠蔽、不特定多数の生き物と人間に怪しげな薬で悪影響を及ぼした人為的な流行り病の発生、それと収支報告書の記載不備、です」
三木ヱ門は背中を伸ばして姿勢を正し、評定所の役人よろしくいかめしい口調で次々と数え上げた。それを聞いた伊作が、わあ僕重罪人だ、と自嘲的に笑う。
頷いているのか頭が揺れているのか何度か縦に首を振った文次郎は、ひょいと手を上げると、ばちん! と痛そうな音を立てて自分の両頬を叩いた。
「その中で、」
また切れ切れの喋り方に戻る。
「会計委員会が、」
すうっと息を吸う。
「関わるのは収支報告書の件だけだ」
一息に言って、がくっと首を垂れる。

とろりとして抑揚のない喋り方を訝しんでみれば、伊作は落ちかかるまぶたと格闘中で、三郎が時々するような半眼になっていた。
「さっき配った薬湯は、塵や埃に反応し過ぎる神経をなだめて症状を落ち着かせる効果があるもので」
副作用として眠くなるんだけどその時は寝ちゃえばいいだけで心配いらない。さっき外で薬湯を飲んでいった人たちも今頃うとうとしているはずだ。ああ、そちらには副作用のことはきちんと伝えて、このあとは慎重を要する作業をしないように注意してあるから大丈夫。
深い沼の底で大鯰が吐き出した気泡が濁った水の中を上昇しながらぷくぷくと弾ける――という、お伽話のような抽象的な図が三木ヱ門の頭に浮かんだ。
喋る内容は整然としているが、伊作の口跡は歯痒くなるくらい鈍(のろ)い。
さっき凄い勢いで首が垂れたのは、一瞬睡魔に負けたためだったらしい。反省していないことはないのだろうけれど。
「最前から咳をしていらした潮江先輩はともかく、」
一度鼻をかんですっきりしている左吉が、首がすわらない赤ん坊のように頭をふらつかせる六年生たちを交互に見ながら言う。
「善法寺先輩にも薬の湯気が効いている――、薬湯そのものを飲んでいないから遅れて効果が出て来たのでしょうけど、と言うことは、善法寺先輩も偽風邪にやられていたんですね」
まさに自分が蒔いた種だ、とまでは口にせず肩をすくめてみせる。
「……僕のくしゃみは、それじゃあただ埃を吸っちゃっただけか」
そう独り言を言って、三木ヱ門は自分の鼻の頭をとんとんと叩いた。
ことごとく不破先輩に見られて不必要に恥ずかしい思いをしたものだ。もしかして「寝ろ」と言われた五年生たちがすとんと眠ってしまったのは、薬湯の匂いのせいもあるのかな。
「ところで、文次郎……たぶん、総ざらい、話した、と思うんだけど」
「そうだな」
口を開けばもたついた喋り方になるのが嫌なのか、文次郎は短く言って、頑張ってまぶたをこじ開けている伊作をひたと見た。

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