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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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犬は喜び庭駆けまわりー
徒歩通(勤)は往・復路が八甲田山ー

10年か20年か振りの降雪量があった地域の皆様ご無事でしょうか。



実家で飼っていた犬は雪が降ると「ひゃっほおおおおおい」と吹き溜まりに突進して雪まみれになっていたので
なるほど犬は喜び庭駆け回るのだな と実感したものでした。
「で、作兵衛は田村を見るたびに逃げ回っていたそうだが」
先輩たちは何の話をしているんだろうときょろきょろしていた作兵衛が、文次郎に名前を呼ばれてぴしっと背中を伸ばす。
「それはふたりで直接話して解決できたんだろう」
「はい」
「はあ」
ちょっと顔を見合わせて三木ヱ門と作兵衛が頷くと、文次郎は首がすわらない赤ん坊のように揺れている留三郎を睨んで、「へっ」と蓮っ葉に鼻を鳴らした。
「お前が仲裁することになってたのに、保健の一・二年に捕まって抜け出せなかったんだってな」
「おお、そりゃ喧嘩売ってんのか? 釣りはいらねえぞ」
一歩前へ出ようとする留三郎を作兵衛が慌てて引き戻す。急に反論を始めた文次郎はその場から動いていなかったが、それでも反射的に腕を引こうとした三木ヱ門は、まだ指が絡まっていることにその時気が付いた。
後輩にそれぞれ腕を取られた留三郎と手を握られた文次郎の言い争いとは、傍から見たらさぞ訳の分からない光景だろうと、他人事のようについ考える。
「違えよバカ。頼りにならねえ野郎だって話だ」
六年のくせにと文次郎がすっぱり切り捨てる。思い当たる点が大いにあるらしい留三郎は若干ふくれっ面になったが、黙っている。
「交換条件で約束したことも果たせない、独断で賭けをして予算をスる、挙句下級生に要らねぇ苦労をかける、で最上級生でございと威張れるのか? お前は」
「……む」
賭けラットレースの件を文次郎に持ち出されるのは意外だったのか、留三郎が痛恨の表情で呻いた。

返答にも反応にも困っている作兵衛の窮状に気付く様子もなく、留三郎の上調子は続く。
「参るよなー。その必要があって情報交換をしただけなのに、たぶらかした、とまで言われてすっ倒されてさ。何それ、どこからそんな発想が出て来るんだよ? 文次郎、お前、田村の何なの? もしかしてあれか、田村は自分の意志で口をきく自由もないのか?」
「……頭、沸いてんのか」
へらへらと喋り続ける留三郎に対して文次郎はまとまった言葉が出ない。口喧嘩と言うよりも一方的な挑発、あるいは単なるいちゃもんだが、状況を鑑みて言葉を選ぶところまで意識が追いつかないらしい留三郎に圧倒的な分がある。
普段の留三郎は文次郎が相手だと無闇に好戦的にはなるが、罵声はぽんぽん叩きつけてもねちっこく絡むような物の言い方はしない。こうまで面倒臭いということは、たぶん「真っ直ぐ歩けない上に涙目」という見た目以上に朦朧としているに違いない。
と思いたい。
「なあ、田村、実はこいつに束縛されちゃったりしてんのか」
「へっ!?」
「嫌ならイヤだって言わないとこいつには通じねえぞ。ああそうだ、頼んでいた"鼻薬"のことを聞きてぇんだが」
「それでしたら――」
「でもお前と喋ったら今度はシャイニングウィザードぐらい食らっちまうのかなー。ははは」
面倒臭い。
今度は三木ヱ門が絶句し、これ以上ないくらい渋い表情をした文次郎が、作兵衛に半ば寄りかかった留三郎を顎で指す。
「作兵衛、そいつ埋めろ。埋めちまえ」
「そんな無茶な。……食満先輩、医務室に行きましょう」
作兵衛が深刻そうな顔でとんとんと留三郎の腕を叩く。様子がおかしい――おかし過ぎる――のは明らかで、もはや一刻の猶予もならないと察したらしい。
「生物を通して伊作がぶん取った薬種の伝手が"鼻薬"だ」
唐突に文次郎が言った。
付加情報をすべて切り離した簡潔な報告にさしもの留三郎も混ぜ返す要素を見つけられず、「ふうん」と妙に素直な返事をする。

俺が田村とつるんでるのを妬いて思いっ切り床に叩きつけやがったからだと、口を尖らせて留三郎が言い返す。言い負かされるのはしゃくだから思い付くまま何でも喋ってしまえとばかりの子供のような口ぶりで、「自分の不調はお前にぶっ飛ばされたせいだ」と抗議したいのが本意ではあるのだが、面と向かって妬心を指摘された文次郎は「あ?」と調子外れな声を上げて絶句した。
「……やきもちって、あの、火であぶって焼いた餅のことですよね」
とは本気で思っていないけれど妬きもち焼きってまさか潮江先輩のことですかと問い質すのもマズそうなのでとりあえずこう言います、という表情を顔いっぱいに浮かべて、作兵衛がすっとぼける。うろたえながらも空気を読んだ三年生に正解を求めるような視線を向けられて、どうせなら触れずに受け流して欲しかった、と三木ヱ門はちょっと天を仰いだ。
その全力の努力を留三郎があっさり無にした。
「あのな、作兵衛」
掴まれていない方の左腕で作兵衛の首を抱え込んで引き寄せ、わざとらしく声をひそめる。
「俺と田村で組んで調べ事をしていたら、この鍛錬バカはな、事もあろうに俺が田村を横取りしたと思い込んだんだぜ」
「へ」
作兵衛は目をぱちぱちした。未だ絶句中の文次郎のほうへ動きかけた視線を慌てて逸し、その横で立ち竦む三木ヱ門にも向けかねて、ふらっと宙にさまよわせる。

このまま進むとその先は医務室だ。
最初の邂逅では出会い頭で重傷患者にラリアットを決めたという文次郎も今は悠然としているが、不倶戴天の敵を目の前にしているのに突っかかって来ない留三郎は、きょときょと動く目がうっすら涙で濡れている。
当分の間戦力外になることについての相談のため、団蔵と異界妖号に介助されて作兵衛の所へ行ったまではいいものの、絶対安静を言い付けられるほどの満身創痍ぶりは伊達ではない。どうやら作兵衛は自分の健康状態の認識を著しく欠いている用具委員長を医務室へ叩き込もうとして、ここまでしゃにむに引っ立てて来たようだった。
「今は医務室に善法寺先輩がいらっしゃるぞ」
「そうなんですか? ああ、良かった」
薬湯のせいでちょっと言動が怪しいという点は省いて三木ヱ門がそう教えると、保健委員長が見張っていればさすがに再脱走はするまいと思ったのか、作兵衛はいくらかほっとしたように頬を緩めた。
それとは対照的に少し目元を曇らせる留三郎に、文次郎が人の悪い笑みを向ける。
「足腰立たなくしてやるってよ。せいぜい期待しとけ」
「何だよそれ。交竜雲雨が待ってんのか」
誰とだよ、と鬱陶し気に留三郎が呻く。耳慣れない言葉にきょとんとする三木ヱ門と作兵衛に素早く目をやって、文次郎は「馬鹿野郎」と短く言い捨て、それからじいっと留三郎を見た。
「まともに頭が回ってねえな」
「そのうちの一割ぐらいはお前が原因だ、妬きもち焼き」

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