忍者ブログ
. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
文責
written by 大鷲ケイタ
バーコード
忍者アナライズ
10
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

丸い目が三木ヱ門を見て、それから文次郎を見た。
緩んでいた目元がぴりりと強張る。文次郎がそれに反応するより先に、勘右衛門は満腹した猫よりのろい動作でもったりと黙礼した。
膝頭近くまで頭が下がり――それきり、動かない。
「……寝てるのか、あいつ」
文次郎が言った途端に勘右衛門の左手がゆらっと持ち上がり、虫を払うように首のあたりでぱたぱたと振った。
「薬湯のせいでぼんやりしていらっしゃるのかも」
眠ってはいないらしい勘右衛門を遠目に観察しつつ、三木ヱ門は首を傾げる。
医務室へ乗り込む前、その前の廊下でよどんだ顔つきをして縮こまっていたのを見かけている。少しばかり「偽風邪」の症状が現れていた文次郎は薬湯の蒸気を吸い込んだだけで強烈な眠気に襲われ呂律が回らなくなったのだから、実際に口にしているはずの勘右衛門は、自重も支えられないほどふらふらになっていてもおかしくない。
そう言えば伊作も「副作用で眠くなる」と言っていた。その時は寝てしまえばいい、とも。
保健委員長お墨付きの「病人」という大義名分があるのに、どうして自分の部屋で寝床に潜り込まずにあんな所でぼけっとしているんだろう。
俺もあんなふうだったのか、と文次郎がちょっと顔をしかめる。
「用具の馬鹿みてぇに――」
また留三郎のことを馬鹿と言った。
「――アタマがぶっ飛んで、身の取り回しもできなくなってるんじゃねぇだろうな」
「尾浜先輩の部屋に……」
「突っ込んでおいてやるか」
このまま見過ごして、うっかり廊下で寝こけた勘右衛門が(本当の)風邪を引きこんだなんて後で聞いたら寝覚めが悪い。なんとなく足音を忍ばせてふたりが近付いて行くと、ひょっと顔を上げてそれを見とめた勘右衛門の頬が、また一瞬引きつった。
体を引こうとして足をばたつかせる勘右衛門の背後で、部屋の戸がぱたんと開いた。


口から出るままにぎゃあぎゃあと喚き合っていれば事足りる自分と滝夜叉丸はずいぶん気楽だ、と言うよりガキっぽい。でも、たまたま視線が合ったらそれがど突き合いに雪崩れ込む十分な理由になる文次郎と留三郎の罵倒合戦だって似たようなものだ、と思っていたけれど――実はその裏には禅問答のような深い意図が隠されていたりする?
いや、さすがに無いか。
さっきの馬鹿だ馬鹿じゃねえという無益な口論に然り、剥き出しの感情同士を衝突させることだってある。いつもいつも互いに仮面を被って裏を読み合っていてはくたびれる――
「なんだ、あれ」
怪訝そうな文次郎の声に、三木ヱ門はふと我に返った。
いつの間にか上級生長屋の庭先へ来かかっている。文次郎の視線を辿ると、こちらに面した廊下に人らしい影がうずくまっているのが見えた。
廊下の柱に肩と横顔をぺったり付けてもたれかかり、胸の前で緩く腕を組んで、両足は地面に向かってだらんと垂れている――というだらけた姿勢で、何と言うか、全体的に不定形だ。
それはものの例えで、もちろん一見でヒトだと分かる輪郭はある。しかし、手を離せばすぐにずるずると平べったくなりたがる搗きたての柔らかい餅を無理矢理ヒト型にまとめあげたような、何とも"もたっ"とした雰囲気を漂わせている。
「煮崩れた里芋みてぇだな」
「……いえ、尾浜先輩が座っていらっしゃいますね」
三木ヱ門と似たような感想を文次郎が呟き、廊下の方へ目を凝らした三木ヱ門が訂正すると、その失礼なやり取りが聞こえたのか、餅でも芋でもない勘右衛門はぎょろりと目を動かしてこちらを見た。

戦国期最大の船・安宅船の機動力を調べていたら大型輸送船「おおすみ」とプレジャーボートの衝突事故が起き、諜報員を養成した陸軍中野学校は現代版忍術学園みたいなもんだよなーとふと思ったその日にそこ出身の小野田寛郎さんが亡くなられた ヤな感じの偶然が続きました。

「でかい船はにぶい」と認識していたので、衝突時に「おおすみ」(全長178M)が競艇ボートばりの超機動でターンしたことになっている航跡予想図を見て「これは無いわわわわー」と思っていたら、その後めっきり事故の続報を聞かなくなったのが何か怖い。
小野田さんは身につけていた情報分析力が高いばかりに、ベトナム戦争に向かう米軍機や説得者が置いて行く新聞・雑誌から「戦争は未だ継続中」と判断していた というのが因果だなあ…。


続きからメルフォの返信ですー。
八左ヱ門の返事を聞いた瞬間に文次郎はそれが嘘だと見抜き、しかし強いて問い質しはしなかった。その直前に「生物委員会の収支報告書の記載には何も問題がなかった」と三木ヱ門が強弁していることと関係がある、と考えたのだろう。
何かを自分から隠そうとしている。悲壮なほどに必死なその様子を見るに、それはただ私利私欲の為ではない、よほど"重い"事柄らしい。それならこっちもその覚悟を尊重して「知らぬ振り」で応じよう――だが、お前らだけで丸ごと全部背負うんじゃねえ。
「あの念押しは、分かっていて仰ったんですね」
"三度目の"脱走はさせるなよ。
お前が俺に嘘を言ったことは分かっているが、そのことにはわざわざ突っ込まないが、俺が"分かっている"ということをお前も"分かっていろ"。文次郎は言外にそう啖呵を切り、それを正しく読み取った八左ヱ門は絶句した。そして八左ヱ門もまた野暮な問い返しはせず、お前らの荷をこっちにも寄越せという文次郎のぶっきらぼうな厚情を汲んで、受け容れた。
呟くように三木ヱ門が言うと、文次郎は急にとぼけた。
「何のことだ? 俺がいい加減なことを言ったから竹谷も勘違いした、ってだけの話だろう」
「……はい。で、私は単純です」
口を曲げる三木ヱ門に、拗ねるなよ、と文次郎が苦笑する。
猿は二回逃げた、とそれを知らないはずの文次郎に二度言われて、その二度とも「はい」と答えた。疑いもなく。迷いもなく。だって自分は「二回逃げた」ことを知っていたから、つい。
それにしても、ほんの一往復だけのやり取りの間に、腹の探り合いや含意の推察や即座の熟慮が行われているなんて――上級生同士の会話って疲れるなぁ。

だが、猿の移送行幸中に首飾りだけ籠から落ちたと考えることはできなくもない、と付け加える。
――となると、文次郎が「首飾りを探すために脱走したんじゃないか」と言ったこと自体がそもそも不自然だ――そうではない確率が高いことは承知しているのに――というわけで……それに対する八左ヱ門の「そうかもしれない」という答えも、またおかしい。
これが二度目の脱走だと文次郎が知らないことを、猿を捕まえた安堵のあまり八左ヱ門が失念していた可能性はある。
でも、低い。
見た目はわあわあと大騒ぎで立ち回りをしながら、今日の八左ヱ門は常に頭の一画に冷静な部分を残していた。……今日"の"かな? 三木ヱ門が知る機会がなかっただけで、今日"も"、かも知れない。とにかく、それを忘れてはいなかっただろう。文次郎が指しているのは一度目の脱走のことだと判断できたはずだ。
なのに、文次郎の発言を曖昧に肯定するような返答をしたのは……それでは、わざと?
顔の周り飛び回る見えない虫を追うようにうろうろしていた三木ヱ門の目が、一点に留まって徐々に晴れてきたのを見て、文次郎は小さく頷く。
「一度が二度でも理由が何でも、そう大したことじゃない。猿が無事にご帰郷し遊ばせ給うた今となっちゃ、いっそどうでもいいってくらいの話だ」
しかし八左ヱ門は"何も知らない"文次郎が誤った推測をしたのに便乗して、嘘を吐いた。ええそうですね、この小猿はお気に入りの首飾りを見つけ出したくて逃げ出したんでしょうね。いつどこで失くしたか? さあて、うっかりミスなんてそれこそいつどこで起きるか分かりませんからねえ。
確かにあまり意味のない嘘だ。
が、知ってしまえば理不尽な責任を負わされる真実を覆い隠す小さな煙玉のひとつは、ひょっとするとこの先、人の命を左右する重要な働きをするかもしれない。ならば、どんなに薄くとも、煙幕を張っておくに越したことはない。

Copyright c 高札場 All Rights Reserved
PR
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ / [PR]