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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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痛い痛いと大げさなほど騒いで三郎は顔を背けようとするが、首を振ったくらいで振りほどけるほど文次郎の握力は軟弱ではない。半切りのすだちでも絞るようにぎゅうとつままれた口の端が面白いくらい伸びる。
潮江先輩、手に力が入らないのは治ったんだ。湯気の効果が切れたのかな。
揉めるふたりの様子がふと目に付いて三木ヱ門の視線が逸れると、それを追って自分の顔をしている三郎を見た勘右衛門が、ぽんと手を叩いた。
「そっか。田村が見た医務室にいる"俺"は三郎だよ」
「えっ?」
医務室前の廊下で膝を抱えていた"勘右衛門"の姿を思い出す。周囲に暗雲が立ち込めるようだったそのどんよりした雰囲気は確かに、いつも通りからからと明るい"この"勘右衛門よりも、柱にもたれてつくねんとしていた勘右衛門(中身は三郎)のほうに似ている。
……すると、仙蔵に解放されて八左ヱ門から勘右衛門に顔を変えた三郎はなぜ医務室の前にいたのか、という疑問が新たに湧いてくる。三木ヱ門が見た限りでは三郎に「偽風邪」の症状はなかったはずだ。それに、あのとき隣に作法委員の喜八郎がいたのは偶然か?
つまんで引っ張った部分が際限なく伸びる仕掛けに呆れる文次郎と、涼しい顔の三郎を見比べつつ三木ヱ門は考えた。勘右衛門も笑ってそれを眺めながら説明する。
「俺は一年ろ組の教室で黒板を替えるのを手伝ったあと、すぐ医務室に行ったもん。乱太郎と左近が――あと半分死んでる膏薬だらけの食満先輩がいたけど、"鼻薬"の場所は善法寺先輩しか知らないからって、代わりに生姜湯を貰った」
淀みのない口調の中で、鼻薬、の所だけ妙な抑揚がついた。
それに気付いた三木ヱ門は思わず強く瞬きした。
三木ヱ門の反応を見た勘右衛門はいたずらっぽく笑い、「実体が無いものはねだっても出て来ないよね」と言って、自分の鼻をくしゅっとひねった。

この春からの就職・進学に向けて引越しをされる方に、費用の見積もりは複数の業者から取ることを是非ともお勧めしたい。
のを、郵便受けに入っていた某社のチラシを見て思い出しました。

今の住みかに引越す前に見積もり比較サイトを使って7~8社に依頼し、その後は個別の電話連絡で予想される費用やサービス内容等を教えてもらったのですが、「近距離の陸路・2tトラック一台・スタッフ2人」でどこも大体¥30,000~35,000くらい。これにダンボール10箱+ガムテープが付いたり、引越し先での機械類の配線をしてくれるサービスがあったりします。
が、一社だけ「費用¥265,000、2tトラックにスタッフ1人、付加サービス無し」と提示してきた業者がいました。

引越しのハイシーズンでもなくオール陸路で荷物も少ないのに25万超えかい! とあんまり衝撃だったので他の業者の方々に話したら、絶句したのち「それだけあればウチならそちらから沖縄まで行きます…」と呟いたり「女性ひとりだから足元見られてますねぇ」「ぼったくりですね!」と正直すぎる感想をおっしゃったり、そのあと皆さん少し声をひそめて「……ちなみにそれはどちらの会社ですか」と尋ねてくるのがちょっと可笑しかったり。
男性の名前で見積もり依頼するのもたちの悪い吹っかけ阻止に有効かもしれません。
それにしたって¥265,000はねぇよ。

続きからメルフォの返信ですー。
その滑舌のしっかりした口調に、三木ヱ門はおやと思った。
声は黒板が落ちて来た時と変わらずざらついている。しかし、薬湯の湯気を吸った文次郎や伊作がそうなってしまったように、眠気でとろけた喋り方ではない。
「尾浜先輩は眠くならなかったんですか?」
「んー。疲れたから今しがたまで部屋でうとうとしてた。けど、眠くなるって何の話?」
「あれ? あの薬湯を飲むと眠気が差すからって、保健委員が注意しませんでした?」
「薬湯って? 生姜湯のこと?」
「え? さっき、医務室前の廊下で数馬たちが薬湯を配っていたでしょう?」
「うん? 医務室なら、だいぶ前に行って来たけど?」
疑問符ばかりが行き交う会話に、三木ヱ門と勘右衛門の首が次第次第に傾いてくる。
どうもお互いの認識に行き違いがあるようだ。
ふたりが噛み合わない会話をしている間、要求されるままに一歩右に移動した文次郎がようやく三郎の態度が無礼なことに気付き、表情に険を浮かべて詰め寄ろうとすると、三郎はすかさずその鼻先に蓮の花を突き出した。
ぱん! と蓮が破裂して、割れた花の間から細かな紙片が勢い良く舞い上がる。
寸前で仰け反って直撃をかわした文次郎のあぜんとする顔に紙っぺらがひらひらと降りかかり、三郎はその一枚を空中でつまんで、「私はハチヤです」と大真面目に言った。
「俺の目の前にいるのが鉢屋三郎なのは知っている」
「瓶鉢のハチじゃなくて、虫のハチ、です。蜂の蜂屋」
指先で震わせてみせる紙片は、言われてみれば蜂の形に似ていなくもない。ひとつひとつちまちまと切り抜いて仕込んだならご苦労な話だ。
前髪に引っ掛かったその「蜂」を払って、文次郎は半眼をした。
「お前の諧謔に付き合うのはくたびれる」
「ならば野暮の極みですが解説いたしましょう。私が手に持っているこの蓮の花、古い名は"はちす"で、これは漢字に直せば蜂の巣ですから、巣の中には蜂が住まっているのが道理」
蜂の一家族を持ち歩いていた私はさしずめ「蜂屋」ということになりましょう。
と、飄々とうそぶく三郎の口元を、黙って手を伸ばした文次郎が思い切りつねった。

「元気が無いと日に当たるのか」
「元気が無いと日に当たるんですよ」
奇妙な理屈に文次郎は訝しむが、三郎はさも当然そうな口振りでオウム返しに答える。山には紅葉、月に雲、花は向日葵か月下美人、しかしこの顔は美人じゃない。だから私は日光を浴びるんです。
「月光ではなく」
怪訝を通り越して得体の知れないモノを眺める顔つきになっている文次郎にそう念を押して、ふん、と三郎はそっくり返った。
「――そうしていれば、いずれ花が咲きます」
「向日葵が?」
「ほーら」
そう言いながら三郎は肩先に落ちかかっている髪をひと房つまみ、くるんと小さく振り回す。と、その先端に「ぽん」と音を立てて花(向日葵ではなく大輪の蓮だ)が開き、三郎の動作を反射的に目で追っていた文次郎がその目を剥いた。
一瞬にやりとした三郎はしかし、すぐにつまらなそうにその笑みを消し、髪の先に咲いた花を無造作に千切り取ってくるくると弄んでいる。
「……酔っ払ってねえよな。何がしたいんだ、お前は」
「そうですねえ。とりあえず、先輩がいま立っていらっしゃるその場所から、もう少し右へずれて頂きたいです」
日が遮られてしまいますから、と空とぼけた口調で言い、つまんでいる蓮の花で右の方を指す。
普段の三郎なら六年生の前ではそれなりにしおらしい。しかし今はよほど機嫌が悪いのか、それとも文次郎を辟易させて面白がるつもりなのか、恐れ気もなく随分と絡んでくる。
「ひどいなー。別に、光源氏や敦盛と張り合うつもりでもないけどさ」
変装したその顔をさして「美人じゃない」と言い切られた勘右衛門は、膝でにじって廊下へとてとてと出て来ながら、自分の頬をぺろりと撫でて屈託なく笑った。

引き戸の向こうから顔を覗かせたのは、膝立ちで戸に手を掛けた勘右衛門だった。
「んっ?」
「ん?」
三木ヱ門が目をぱちくりさせ、新手の方の勘右衛門もそれを受けてぱちくりする。表情はやや眠たげにとろんとしているが、こちらは鬱々とした空気をまとっておらず、三木ヱ門を見てへにゃりと愛想笑いのような表情を浮かべた。
一方、陰気な餅状の勘右衛門は首を回して振り返り、そこに同じ顔がいるのを見ると何事もなかったようにまた前に――地面に――向き直り、いかにも気怠げな重い溜息を落とした。
同じ場所にふたりの勘右衛門がいる――と言うことは。
「私は鉢屋です」
そうと指摘される前に先手の方の勘右衛門が挙手して名乗り、また目だけぐりんと動かして文次郎を見た。
どういう訳か無闇に投げやりな口調と態度だが、その声は確かに三郎だ。
いや、「どういう訳か」じゃないか。立花先輩に拉致されたあと、変装していた竹谷先輩の顔を覚えさせるために、忍雀と強制的にお見合い(仙蔵曰く「"多少"精神の緊張を強いられること」)をさせられたんだっけ。くたびれて寝ているだろうと立花先輩は予想していたけど、まさかふてくされていたとは。……ふてくされてるよな、これは。
「竹谷の顔はやめたのか」
自分の顔を指して文次郎が言うと、三郎はぎゅっと顎を引き、より一層上目づかいになって呪わしげな声を吐き出した。
「やめました。今日はもうあの顔は験が悪いのでぇ」
「あー……。悪かったよ」
文次郎は今日、お前は鉢屋か否かと八左ヱ門の顔をした三郎を締め上げている上、そうした理由は結局冤罪だったのだ。ぼそっと謝る文次郎に、ほとんど白目になった三郎は不遜にもただ頷いて答えた。
「何をしてらしたんですか? ここは寒いでしょう。体が冷えてしまいますよ」
戸を開けたきり黙っている勘右衛門と半笑い顔のにらめっこをしていた三木ヱ門が尋ねると、三郎は口角をゆっくり吊り上げて、にたりと笑った。
「田村は優しいなぁ。意地悪をしたのに私を心配してくれるのか」
「意地悪?」
「元気が無くなったから私はここで日に当たっていたんですぅー」
軽口を聞き咎めた文次郎に、一転して噛み付くように三郎が言う。

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