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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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忍者アナライズ
08
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「……暇じゃないと言ったな。何か用事があるのか」
どん。
「……三年の富松作兵衛を見なかったか。落とし物を拾ったんだ」
だん、どん。
「……廊下を走って行くのを見かけた。あの方角なら、今頃自室だろう」
ばん。
「……そうか。ありがとう」
がたん、どん、だん。
「……どういたしまして」
ごん。
「和やかに会話する振りをしつつ足を踏み合うのはみっともない」
額を接して極低音で会話する三木ヱ門と滝夜叉丸を眺めていた喜八郎が、首を振り振り感想を述べた。据わった目で振り返った滝夜叉丸に、腕に抱えた冊子をちょっと持ち上げて見せる。
「宿題、早く配らないと、みんなに怒られるよ」
「……それもそうだ」
ぷんと顔を逸らして、滝夜叉丸が前髪を手櫛でひと梳きする。
「作兵衛の落とし物って、何?」
まだ眉が八の字を描く三木ヱ門の方を見た喜八郎が首をかしげ、あまり興味がある風でもなく尋ねる。
「小物」
「あ、そう」
横を向きながらのぶっきらぼうな答えに呆気なく頷いて、ふと二人の後ろへ目をやった。
廊下を踏み鳴らす音に紛れて気付かなかったが、誰かの足音が近づいて来ている。三木ヱ門が喜八郎の視線を何気なく追ったのと同時に、のんびりした声が言った。
「みんな集まってどうしたの。楽しそうだねえ」
「……楽しそう?」

「しかし体育委員会と言えば、穴を掘るかバレーをするかランニングするかばっかりじゃないか。委員会として、他の生徒の役に立つ活動を、いつどこでしているというんだ」
校庭中を地下通路にしては地面を陥没させてたまたま地上に居合わせた者を巻き込み、バレーボールを破裂させては次から次へと借り出し、トスされたものはとりあえずアタックする委員長のお陰で他の委員会がどれだけ備品を破壊されて泣きを見たことか。
論点をずらして三木ヱ門が指摘すると、滝夜叉丸は正直にもぐっと詰まった。顔を赤くして必死に反論の糸口を探している姿を見て勝ち誇る三木ヱ門の袖を、つんつんと喜八郎が引く。
「ねー、三木ヱ門。予算会議の時に、会計委員長が”体育委員が掘りまくった塹壕を埋めるのに手間と費用がかかってる”って言ってたよね」
「え? ああ、確かにそうおっしゃったが、それがどうかしたか」
「で、穴を埋めてるのは用具委員会だよね。前に食満先輩が”誰が埋め戻してると思ってる”って怒ってた」
「お前も叱られただろ」
「それは今関係ない。外部に発注して人足を頼んでる訳じゃないし、用具に手間賃を払ってる訳でもないのに、手間はともかく費用はどこにかかってるのさ?」
「えー……と……」
「使途不明金だよねー。会計委員会はどうしてそれを見過ごしてるの」
「その通りだ。大いに怪しい。何と言っても、会計委員会に会計監査は入らないのだからな」
風向きが変わったと見た滝夜叉丸が喜八郎に便乗する。三木ヱ門はたちまち眉を逆立て、い組の二人を睨みつけた。
「お前ら、僕たち会計委員会が予算を着服しているとでも言うのか!? 潮江先輩がそんな卑怯をする筈があるか!」
「そんな事は言っていないだろう。何を焦っているんだ」
「言ったも同然だろう! 疑うなら好きなだけ過去の帳簿を検算させてやる。体育委員長の物損記録ならば延々と出て来るぞ」
「何だと!」
猛烈な勢いで食って掛かる三木ヱ門に滝夜叉丸の余裕ぶった態度が脆くも崩れ、掴み合い寸前の二人から喜八郎がそろそろと距離を置く。それに気付いて滝夜叉丸が怒鳴りつけた。
「喜八郎! 言い出しっぺが逃げるな!」
「ケンカはやだよ。めんどくさい」
明後日の方角に視線を飛ばしていた喜八郎は、険悪な雰囲気はどこ吹く風で髪の毛の先をくるくるといじりながら、それに――と付け足す。
「体育委員会って結局、経費がかかるような活動はほとんどしてないんでしょ。それなのに、何に予算を使ってるの」
「……」
「その通りだ! 体育委員会こそ使途が怪しい!」
「体育の分を、作法委員会に回してほしいよね。うちは色々とお金がかかるんだから」
「……」
敵の敵は味方ではなく敵の敵も敵だった事態を悟った滝夜叉丸と三木ヱ門は、やむなく講和した。


「北石先生って……教育実習で失格になったくの一の先生か」
頭の中の書き付けを覗くような顔をして、滝夜叉丸が口を挟む。
「ああ、その人だ。今は天賦忍者協会で派遣社員をしておられるそうだが」
「その派遣忍者としてドクタケに協力した北石先生のお陰で一年は組が大変な目に遭ったと、金吾に聞いたことがある」
どの面下げて――と口の中で呟いて、滝夜叉丸はいくらか不愉快そうな表情をした。
三木ヱ門が思わず喜八郎を見ると、喜八郎も目を丸くして三木ヱ門を見た。その顔で口を尖らせてぼそっと言う。
「それっていつの話? 三木ヱ門は知ってた? 兵太夫はその話、したことない」
「団蔵もない。僕はさっき、きり丸に初めて聞いた」
「ふうぅーん」
こそこそと言い合う二人の声を聞きつけて、滝夜叉丸は急に機嫌を良くした。プリントを抱えたままで器用に肩にかかる髪をはね上げ、乱太郎が真似をした「えらい目」と同じ目をして高らかに笑う。
「それはつまり、お前たちは後輩の一年坊主に、敵状を報告するに足る上級生ではないと思われているということだな。私と違って」
喜八郎が尖らせていた口をへの字にした。
「作法委員会は塹壕ばっかり掘ってる委員会と違って神経を使う作業をするから、委員会中にお喋りしてる暇は無いんですうー」
しゃらっと三木ヱ門もそれに混ざる。
「会計委員会も計算に集中してるから雑談をする余裕なんてない。バレー委員会は呑気でいいなあ」
「なにを言う! 集中力無くしてあの怒涛の塹壕掘りや砲弾バレーについて行けると思うのか!?」
だんっと足を踏み鳴らし、滝夜叉丸が言い返した。



長屋の廊下からよれよれの声がした。
見上げると、心無しかボロくなった滝夜叉丸が紙の束を手に歩いて来たところだった。すぐ後ろには喜八郎もいて、いつもの踏鋤ではなく、やはり何冊もの冊子を抱えている。
「やほー。今、暇?」
三木ヱ門と目が合った喜八郎は、ふさがった両手の代わりに右足をひょいと上げて挨拶のようなものをした。
「はいはい、やほー。暇じゃない」
「なんだ。運ぶの手伝ってもらおうと思ったのに」
「それ、何? テストの答案か?」
「い組の宿題、と言うか補習用のプリントと問題集だ」
庭先から廊下に上った三木ヱ門が二人の持っているものを覗き込もうとすると、その目から隠すようにプリントを持ち直して、滝夜叉丸が無愛想に言った。その姿に何か違和感があると思ったら、いつもはまるであふれ出る自信を誇示するようにくるんと跳ね上がっている前髪が、すべて顔の前にしおしおと下がっている。
……まさか、本当に泳いだのかな。この寒いのに。
どことなく湿っぽい髪の毛の先に目を留めた三木ヱ門が思わず眉をひそめると、それをどう受け取ったのか、滝夜叉丸は憤然として顎を上げた。
「言っておくけどな! これは今日の授業が予定通り進まなかった分を各自で自習するためにクラス全員に配るもので、決して私だけが特に追加されたものではないぞ。教科も実技も成績は学年で一番、実戦では上級生にも引けをとらないばかりでなく歌舞音曲や茶の湯の芸術にも秀で忍術学園期待の星との呼び声高く既に各地の忍者隊がスカウトを派遣して来るほどの」
「以下省略」
ぱきっとグダグダの腰を折った喜八郎は、こんなに課題が出て参っちゃうよねーと、ろ組の三木ヱ門に同意を求める。
同級生しかいない場で身上披露をしても甲斐がないことは承知しているのだろう、滝夜叉丸は口上を遮られたことには何も言わず、キッと喜八郎を睨んでプリントを突き付けた。
「お前が落とし穴に目印を付け忘れて、先生がそれを踏み抜いて授業に遅刻してしまわれたせいだろうが!」
「だから言ってるじゃない。アナンダ2号の手前にはちゃんと石を並べておいたってば。誰かが動かしちゃったなら、それは僕のせいじゃない」
「2号……、アナンダ1号はどこに掘った?」
「三叉路の真ん中」
眉根を寄せたまま尋ねる三木ヱ門にあっさりと答えて、あれはここ数日で一番の出来だったと喜八郎が誇らしげな顔をする。
「……学園を訪ねて来られた北石先生が、1号に落ちて出られなくなっていたぞ」
「おやまあ」



用具委員の一年生たちは、村人に難癖をつけられて作兵衛が落ち込んでいるんじゃないかと心配していた。風邪をひかないように医務室で生姜湯は貰ったけど、罠にかからなかったと言われた分の魚を捕まえようとして頭までびしょ濡れになっちゃったし、とも。
ひとりで魚を取ろうとした――と喜三太は言っていた。
生き物を捕まえようとするなら数人がかりのほうが勿論効率がいい。それなのに、一年生を冷たい水の中へ入れず、ひとりでバシャバシャと。
まだ身体が小さく体力のない後輩をかばった。それも理由のひとつだろう。
今ひとつの理由は。
石火矢格納庫の前を通り過ぎ、忍たま長屋の方角へ走りながら、三木ヱ門は自分の右腕をちらりと見た。
会計委員会の中で学年は六年生の文次郎に次いで二番目だから、多忙な委員長を補佐する役目は必然的に三木ヱ門に回って来る。山ほどの叱責や注意を浴びながら必死になって仕事こなすうちに、今では重要な仕事を任されたり、委員長不在の場合は代理を務めたりするようにもなった。
委員長の右腕と見なしてくれる人もいる。
――けど、今でも必死だ。役に立ちたい、お荷物になりたくない、そんな殊勝な思いばかりでもない。

六年生に、委員長に、たとえ学年は下でも自分は必要な存在だと認めさせたいと、いつでも思っている。

だからきり丸がさっき「潮江先輩が食満先輩に焼き餅を焼いた」と言った時、まさかそんなと否定しながら、ちょっぴり嬉しいと思ってしまった。
三年生の作兵衛は用具委員会の中で二番目だ。
同級生の左門いわく、責任感が強くて真面目なやつだ。
村人の前に魚を積み上げることができれば言い掛かりの種をひとつ消せる。手間賃を巡る押し問答に苦慮している用具委員長の助けになる。自分がそれをやらなくちゃ、と一心に思い詰めたのだろう。
「……あ、そうか」
忍たま長屋へたどり着いて足を止めたのと同時に、思い当たった。
委員長のお役に立つぞと気張っていたのに、その委員長に、あとは自分が何とかするからと鼻垂れの一年ボーズたちと一緒に先に帰されてしまったのだ。
これはヘコむ。
そう指示された時の作兵衛の心境を想像して、三木ヱ門はつい呟いた。
「食満先輩って意外と分かってない……」
「誰が何を?」



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