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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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いい音を立てて鳴った額をさすりながら、左門は少し胡乱な顔をする。
「……でも、壊れていないものを壊したと思い込んだとして、それで火を噴くほど叱られると分かっていても謝らないで逃げ回るのは、らしくありません」
自分が悪いと思ったなら潔く謝るのが富松作兵衛という友人だ。ところでまさか怒っていませんよねと、念を押すように上目遣いをする。
「何やってんだとは思ったけど、怒ってない」
鹿子に勝手に触っていたことに少しムッとしたくらいは怒った内に入らない。三木ヱ門がそう答えると、左門は何度か小さく頷いて、あからさまに安堵した。
その態度に苦笑しつつ三木ヱ門は考えた。作兵衛らしくもなく逃げ回る理由も、なんとなく想像できる。
橋を架けに行った村でさんざん嫌味や言い掛かりを浴びて、頭ごなしにけんけん言われることに疲れて切ってしまっていたのだろう。そのうえ交渉に難渋する委員長の役に立とうとして立てなくて、そこへ持って来て三木ヱ門の大事な石火矢を壊してしまい(と思い込んだのも気分が落ちていたせいなのか)、それがばれて怒鳴られると思ったら咄嗟に逃げ出してしまった。
用具倉庫から二度目に逃げたのは、一度逃げてしまったせいで鹿子の件を言い出しにくくなってしまったから――かな。
たぶん、謝らなくちゃという気はある。十二分にある。あるけれど、今日はもう怒られたくない。怒られたくないけど、いつまでも逃げてちゃいけない。
もともと何も謝る事なんて無いのに、いらないところで気を揉んでひとりでますますへこんでいるとしたら、難儀だ。考えるだけでこちらまで滅入ってくる気がして、三木ヱ門は溜息をこぼした。
「お前の友達は責任感が強いな」
「はい!」
左門が姿勢を正して即答する。自慢気なその顔を見て、もう少しいい気分にさせてやりたくなった。
「滝夜叉丸も作兵衛を褒めていたぞ。三之助と左門をまとめて引き回すのは凄い、と」
「今日の天気は晴れのち槍ですか?」
あの滝夜叉丸先輩が他人を褒めるなんて青天の霹靂の上を行く天変地異が怒るに違いない、と真顔で軒下から首をつきだして空を見上げる左門に、三木ヱ門は努力して笑いを噛み殺した。
「……先輩、先輩」
「なんだよ。猫でもいたのか」
「訂正します。今日の天気は晴れ、所により――」
左門の言葉を遮るように、がらがらがらがちゃん! と騒々しい音と共に何かが屋根から転げ落ちた。



更に言うと、作兵衛は木から落ちる瞬間はきっと見ていない。鹿子の前に来かかり、どこからか鳴った音に振り向いた時に、地面に落ちた金の輪っかと鹿子に呑まれていく何か綺麗なものをちらりと見ただけだ。
そして、慌てた。
「なんで」
話が見えない三木ヱ門は眉を寄せ、ぞんざいに尋ねる。
「移動台に乗ったぴっかぴかの石火矢は田村先輩のものに決まっているから」
「石火矢が僕のもので、その中に綺麗なものが滑り込んだからといって、作兵衛が焦る必要はないだろ。何かが中に落ちたようだと言えばいいのに」
至極当然そうに左門が言う回答にも、得心が行かない。
だが実際、三木ヱ門に見つかった作兵衛は大いにうろたえ、文次郎と八左ヱ門の顔の三郎が揉めている間に大急ぎで逃げ出している。確かに焦り、慌てていた訳だ。
左門は偉そうに両手を腰に当て、はあーっと深い溜息をついてみせた。
「分からないかなあ。前に聞いた話によると、作兵衛は鹿子に腕を突っ込んでたことに何も言い訳をしないで逃げちゃったんでしょう」
そう言えばその事も話してあったっけと思う間に、左門はまた言い切った。
「作兵衛は先輩が飾り付けまでするほど猫可愛がりしてる鹿子を壊してしまったと思ったんです」
「待てよ。だから鹿子は飾りなんて付けてないし――、いいやもうそれは。とにかくどこも壊れてなんかなかったぞ」
何しろ大事な大事な火器のこと、少しでも異変があればすぐそれと気付くはずだ。
三木ヱ門の反論に左門はしかつめらしく首を振り、次いで、その首をひょいと傾けた。
「少し言葉足らずでしたか」
「少しだといいんだけど」
「えーとですね。鹿子本体じゃなくて、鹿子の飾りの"何か"に気付かないで袖を引っ掛けてしまったとか、あるいは自分が歩く振動で剥がれ落ちてしまった――と、」
「思い込んだのか」
まずいまずいえらいことをしちまったどうしよう壊したのがバレたら怒られるどうにかしてすぐ直さなくちゃ田村先輩が帰って来る前に! と泡を食って蟹鐶を拾い、しゃにむに鹿子に腕を突っ込んだが、砲身が長くてとても底まで手が届かない。ひとりだから三郎次とタカ丸がしてくれたように尾部を持ち上げる事もできない。三木ヱ門はいつ戻って来るかわからない。あわあわしている内に戻って来てしまって、案の定、一瞥するなり怒った顔をした。
そりゃそうだ。だってまるで意味不明な光景だったんだもの。
そこへ通り掛かった八左ヱ門――中身は三郎――が、不機嫌な三木ヱ門と困り果てている作兵衛をなだめている最中に、
「"食満先輩に"――って言ったな。僕が」
小さなものから大きなものまでなんでもござれの修理のスペシャリストの名前を口にしたことで、作兵衛はいよいよ確信してしまった。
やっぱりこのカノン砲はどこかが壊れたんだ!
「……腕が抜けないなら、食満先輩に知らせてヌルヌルブレンドで何とかしてもらおうか、と言うつもりだったんだけど」
「言葉足らずでしたね」
したり顔で言う左門の額をぺちんと張った。


猫の瞳孔の形で時刻を測る方法のざっぱメモ あとで追記するかも


『六つ丸く五七卵に四つ八つは柿の核なり九つは針』(出典・時期不明)
 ・六つ(午前六時頃)は丸
 ・五(午前八時頃)と七(午後四時頃)は卵形
 ・四つ(午前十時頃)と八つ(午後二時頃)は柿の種
 ・九つ(正午頃)は針のように細い

以下類同あり。文句が微妙に違う。

『和訓栞』(1776年)「六ツ丸く四八瓜さね(うりざね)五と七と玉子なりにて九ツは針」
『譬喩尽』(上と同時期)「猫は魔の者眼中瞳に時を分つ。六ツ円ク、五八卵ニ、四ツ七ツ柿ノ核也、九ツハ針」


聞き流してたラジオでパーソナリティが話のつかみにチラッと喋った話題に素早く食いつきました。
そっちだと最後は「針」じゃなくて「紙(髪?)」と言ってた気がする。

唐入りの時に島津義弘は時計代わりに猫を7匹連れて行ったそうで、落乱には出てきてませんが忍者もこの方法を使ってたらしいです。
落乱世界には腕時計があるけどねー。


「それで、だ。作兵衛がつい今しがたこの金の蟹鐶を落とすより前に、鹿子の中に入り込んでいた、丁度これと対になるような小さい玉の飾りを拾おうとしていたのを見かけたんだ」
「鹿子ってあの、でかくて重くて大口径のカノン砲ですね」
両手で砲口の大きさを示して左門が言う。そして、変な顔をした。
「先輩には石火矢におシャレをさせる趣味もあったんですか」
「”も”ってどういう意味だ」
鹿子やユリコやさち子に春子、誰も皆余計な装飾がないからこそ容姿端麗なのだと言い掛けて、ふと既視感にとらわれる。
三郎次と久々知先輩にも似たようなことを言われたっけ。
と言うことは……他の学年にとって、僕はそんなイメージなのか。名前をつけて可愛がっている石火矢を、曇りひとつなく磨き上げるだけでは飽き足らず、金銀宝石や花やリボンで飾り付けて喜んでいるような?
ぶるるる、と首を振った。
「その飾りは僕のじゃない。それだって学生が持つような安い物じゃなかったんだ。知らない間に鹿子の中に入っていて、どこから来たものか分からない」
「それじゃ作兵衛は落とし物を拾ったんだ」
聞いた話をどう繋げて組み立てたのか、蟹鐶と玉の飾りが一緒に落ちて来て、蟹鐶は地面に落ちて飾りは鹿子の中に落ちるのを見たんですと、作兵衛でもないのに左門が断言する。だから二つで一組になるものだって分かったから、とりあえず蟹鐶を拾って、それから鹿子に腕を突っ込んで飾りを取ろうとしたんだ。
「どこから落ちるんだ。誰が落とすんだ? カラスか?」
「なんで急にカラスが出て来るんですか」
左門が侮るように眉をそびやかし、三木ヱ門は首をすくめる。僕じゃなくて三郎次の説だ。光物好きカラス盗っ人説。
「鹿子は砲口を上に向けて、木の下に置いてありましたよね」
体育委員会が掘り進んできた塹壕が落盤して、その中で滝夜叉丸から左門を預かって地上へ這い上がった時、確かに鹿子は木陰でひとり静かに待っていた。指を立てて確認する左門に三木ヱ門が頷く。
「作兵衛が鹿子のそばをたまたま通りかかった時――」
「僕が鹿子の手入れを終えて、掃除道具を片づけに行っている間、だな」
「――その時に、木の上から落ちたんです」
小さなきらきらしたものがふたつ、かちゃん、ことん、と。


要するに! と馬鹿でかい声を張り上げて二人のやり取りに割り込む。
「善法寺先輩がこっそり作っていた薬は効果抜群でおまけに持続性のある体力増強剤で、それゆえに七松先輩はただ一度口にしただけで一ヶ月もずっと好調好調絶好調なのですね」
「ふうん?」
きっぱり断じる左門に、少し気を呑まれたふうに小平太が鼻を鳴らす。それから右手を上げて閉じたり開いたりし、その何度目かにぎゅっと力を込めて拳を握ると、不意にがっくり肩を落とした。
「なんだ、それじゃ調子がいいのは鍛錬の効果じゃなかったんだ。なあんだ……」
見る間にしょんぼりとしおれてしまう。だけではなく、膝を折って廊下にへたり込んでしまい、塩をかけられて逃げ出すナメクジさながらの体で掘り抜いた穴までずるずると膝行して、転げ落ちるように床下へ姿を消した。
「薬で得た力は所詮、自分の実力じゃないってことだな。……間違ってないけど、もう少し気を使って物を言えよ」
恐る恐る穴の底を覗いた三木ヱ門が左門を肘で小突く。鼻の下をにゅうと伸ばす奇妙な表情で遺憾の意を表していた左門は、たちまち眉を吊り上げた。
「その言葉は先輩にお返しします。作兵衛は盗みなど――」
「しないよ。分かってるってば。さっき謝っただろう」
「誰が聞いているか分からないのです。迂闊にそんなことを口に出すのは止して下さい。そもそも、なぜそんな事を考えたんです」
眦をきりりと決し、力の入った表情で左門が問い質す。
その場しのぎや言い逃れが通じる様子ではない。のらりくらり追及をかわそうとしたら、のらりの「の」を言う前に大喝を食らいそうだ。
「……実は作兵衛の落とし物を拾ったんだが、それが不相応な代物だったので、不思議に思ってな」
どこまで話していいものか、言葉を選びながらぼそぼそと言い、飛び出した小平太に驚いて手甲の下へ押し込んでいた蟹鐶をもう一度取り出して左門に見せる。
「金箔じゃなくて本物の金ですね」
しっとりした光を見てすぐに左門が言う。なるほど不相応だと、尖らせていた目をやや和らげ、代わりに口元の線を厳しくする。
「ついでに聞くけど、作兵衛がこういう物を持っていた覚えは?」
「ありません。でも、盗ってません」
分かってるってば。


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