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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「――なんて具合に運べば上々」
伊作を引き据えて問い詰めるところまで行かなくても、薬、薬とやいのやいの言われて少しでもボロを出したら、そこを手蔓に真実を手繰ればいい。持久戦になるかもしれないが、どれだけ時間をかけても白日のもとに晒すべき良からぬ企てを、きっと隠している。
「隠し事を暴こうとするなら最も落としやすい部分から切り崩していくのが定石。今回はそれが不用意な発言をした善法寺先輩だったということだ」
そう結んで話しを終えた三木ヱ門の顔をまじまじと眺めていた一年生たちは、ややあって、交互に口を開いた。
「悪どい」
左吉が眉をひそめる。
「ひどい」
団蔵が目を瞬く。
「面白そう!」
声を揃えて顔を輝かせる。普段はきゃあきゃあ賑やかな一年は組を醒めた目で遠巻きにしている左吉が、団蔵と手を打ち合せてはしゃいでいるのを、三木ヱ門は珍しい生き物を見るような気分で見た。
「隠匿している出所の怪しいお金とか、正規ルートではない闇取引の実態があるかも知れない」
「それに繋がる情報をわざと誤解したまま広めて動揺を誘い、尻尾をつかむ」
「風の術だ」
「マルサみたいだな」
「"鼻の薬"の噂を流したら、あとはじっと善法寺先輩の観察ですね」
「善法寺先輩はどちらにいらっしゃるんですか?」
「それが、分からない」
盛り上がりに水を差す三木ヱ門の一言に、団蔵と左吉が手を取り合ったままぺしゃんとつぶれた。


体力増強剤の蜜漬け薬のように過去の失敗作から得た着想があったとしても、劇的に効果のある新薬をすぐに作り出すことは難しい。しかし有り物の薬でその場しのぎをしたら、他の保健委員や薬について知見がある生徒にたちまちバレる。
どちらにしても、「鼻の薬」は本当にあるのか、無いのなら何故思わせ振りな事を口にしたのかと、保健委員長に対する不審が広がる。
疑惑の渦中に放り込まれた伊作はおそらく――保身だのごまかしの手段を講じる前に、まずひとしきりうろたえる。
そうなったところで会計委員会の出番だ。
鼻の薬の「の」を抜くとすなわち鼻薬、言い換えればこっそりやり取りする後ろ暗い金のことを指すけれど、まさか生徒目標のひとつに正心を標榜する忍術学園の最上級生がそんなはしたない真似をする訳がありませんよね。ところで最近医務室の薬棚はとても充実しているようで、購入予算を支給する会計委員会としても大変喜ばしい。随分と高直な薬種も揃っていますが、きっと少ない予算をやりくりして生徒のためになんとか都合をつけてくださったのでしょう、そのご尽力に頭が下がります。いやいやご謙遜なさらずとも結構です、ご苦労大いにお察し致します。
時に、とてもいい鼻薬とは一体何のことをおっしゃったのか、きりきり白状して頂きましょうか。


季節の変わり目で風邪をひいたり、冷たく乾いた空気に当たり過ぎたりして、鼻をぐずつかせる生徒や教職員が最近目立って増え始めている。
そんな人たちの間に、医務室には効果抜群な「鼻の薬」があるそうだと噂を流す。
だけどその在り処は善法寺先輩しか知らないんだって。どうして隠すのかって? さあ、知らない。きっと高い薬なんじゃない? でも、あの優しい保健委員長が、いくら貴重だからって薬を出し惜しむはずがないよ。だってみんなこんなに鼻水で困ってるんだから!
「善法寺先輩は保健委員の下級生にさえ生物との関わりを黙っている。だけど――何だろう、あれこれ薬種が手に入って機嫌が良くなったのか、"とてもいい鼻薬が手に入った"というようなことは言っているんだ」
それを乱太郎や左近は文字通り「すごく良く効く鼻の薬」と受け取った。賄賂とか裏取引なんて欠片も考えない、いじらしいくらい健全な思考だ。
利益供与と聞いてすぐに"鼻薬"やら"袖の下"を思いついたからこすっからいという意味ではないと、目の辺りを少し曇らせた一年生たちを急いでフォローする。会計委員なんだからそれを連想して当然だ。むしろ良くぞ思い付いた。だからそんな荒んだ顔をするなって。
ともあれ。
きれいに体裁を整えた収支報告書の裏側でうごめいている何かの一端を、ほんの一言とはいえ自発的に第三者に洩らしたのは伊作だけ。ならばそこを蟻の一穴と成して千丈の堤を破るまでだ。
「よく効く薬があると聞いたのだといって、本当は存在しないものをみんなが貰いに来たら、きっと善法寺先輩は困りますね」
「かと言って、そんなものないと言えば、じゃあ"いい鼻薬"とは何の事なんですか――って話になる」
現に乱太郎は雷蔵に"鼻の薬"が入り用になったらどうぞと話し、雷蔵もまたそれを三木ヱ門に伝えている。真に受けて薬を貰いに行っていたら、伊作はどんな顔をしただろうか。
そんなに効くものなら是非とも処方してほしいと、実物がない薬をあちらこちらから要求されたら、困った伊作はどう動くだろう?



「手遊び」戯話にひな祭りネタ掲載しました。
派遣元が登録忍者を適当に割り振ったらこのコンビで活動することもあるのかなと。それっぽく見えますが、突庵→北石って訳ではないです。
承知のうえで死亡フラグ立てて、それをパーンとへし折っちゃおうよ。とナーバスになってる北石に迂遠な励ましをしているようないないような。

本物の菱餅を飾る習慣はうちにはなかったので、なんとなく羊羹かういろうみたいなものだと長いこと勘違いしていました。菱「餅」って名乗ってるのに。
あれってどうやって食べるんですかね。鏡餅みたいに割って焼けばいいのか?
そしてカッチンカッチンに乾いた餅は凶器。


「――ですよね、先輩?」
「うん……そうだけど」
ポカンとしたまま三木ヱ門が頷くと、団蔵はまだ不満顔の左吉に諭すように言った。
「そういうのはさ。大人が話してくれるまで、こっちからは尋ねないんだよ」
子供のうちに聞かない方がいい事だっていっぱいあるんだから。大人になったら嫌でも知っちゃうようなことなら、尚更さ。
「……は組に説教されるなんて」
そう言って口を尖らせつつも、左吉は一応説得を受け入れて引き下がる。
へえ、と声に出さず三木ヱ門は感心した。
三歳しか年の違わない後輩に大人扱いされるのも面映いが、話し手の雰囲気を敏感に察し引くところはさっと引く呼吸は、馬借衆の大人に囲まれて育つうち身に付いたものだろうか。正体の知れない荷を運ぶ時に、これは何かと大人に尋ねてもすらりと答えを貰えなかったりして拗ねたのを、清八辺りにさっきの言葉で宥められた――とか。
「たまに変なとこで世間ずれしてるよな、団蔵って」
「そうかなぁ? 勉強なら左吉のほうがずっとできるじゃん」
「そうだけど。いや、そういうのと違ってさ」
「あ」
今度はつい声が出た。団蔵と左吉が一斉に振り向いたので、いや何でもないと手を振ってごまかす。
そう言えば以前、計算作業中の他愛ない雑談に団蔵がぽろっと言った言葉の意味が分からなくて、全員の手が止まったことがある。口にした当人もただ言っただけで意味は知らず、他の委員同様にきょとんとするばかりだったが、ただひとり解した委員長は耳まで赤くなった。
馬借衆が話しているのを聞きかじったというその言葉はつまり、潮江文次郎をして赤面したきり口をつぐませるようなものだった、らしいのだが、正直なところ三木ヱ門は未だにその意味を知らない。誰かに尋ねる訳にはいかないのは委員長の反応から明らかなので、いつか分かる日を多少の恐れと共に気長に待っている。
無邪気ってやつは実に無敵だ。
……無敵なら、使わない手はない。
「とにかく今はそこを伏せておく。それで、お前たちにやって貰いたいことは、"言い触らし"だ」


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