「くれぐれも他言はしないでくださいね」
秘密をぶちまけてすっきりしたらしい孫兵が、きみこと顔を並べきつい目を向けてくる。三木ヱ門は苦笑いしてひらひらと手を振った。
「このまま事態が収拾すれば言い触らす必要なんか無いだろ。――先月の鳥の餌代が先々月の五割増しになっていたのは、猿のせいだったんだな」
生物委員会が提出した収支報告書のおかしな点が、それだった。
飼育する鳥が倍に増えたという話も聞かないのに奇妙な、と思っていたら何のことはない、他の生き物の五倍も費用のかかる猿がいたのだ。
孫兵ときみこが揃って肩をすくめた。
きみこに肩はないが確かにそんな動きをした。目を瞠る三木ヱ門に、愚痴るような口調で孫兵が言い訳する。
「会計委員会にそれを突っ込まれたら、学園の池へ来た渡り鳥の餌代、で押し通すことになってました」
ここなら無事に冬が越せると学園を頼ってはるばるやって来た鳥たちに、生物委員会の名にかけて、ひもじい思いをさせるわけにはいきません! と、断固言い張れば、会計委員長も折れるか呆れるかして、最後は認めてくれるだろう。認めてくれるといいな。認めてくれなかったらどうしよう……その時まで考えないことにしよう。
「竹谷先輩が、どこからどんなにキツい追及が来ても全部自分が受けて立つから心配するなって――でも、やっぱり変だと思いますよね。猿に予算を食われたからって元からいた生き物にかかる費用は削れないし……もっとマシな理由を考えれば良かったのに」
「いや、きみこって頭が良いんだな、と言うか……本当にお前と仲が良いんだな」
さちこやユリコや鹿子に注ぐ愛情で引けを取るつもりはないが、さすがに無機物の彼女たちが自分の言動に反応して自律的に動き出すと思うほど、三木ヱ門もまだ分別を失くしてはいない。
「何を今更」
孫兵の澄ました顔にちょっぴり誇らしげな色が浮かぶ。
その時、2人を囲む衝立のひとつが突き飛ばされたように倒れ、板張りの床にぶつかって大きな音を立てた。
「痛ってぇっ」
衝立を背に敷いてぶつけた頭を押さえていた留三郎は、すかさずその腹に踏み乗った乱太郎に鼻先へ膏薬を突き出され、顔をひきつらせた。
「さー、観念してくださいよぉ」
「要らない、いらないって!」
「こら、上級生を踏むんじゃない」
間一髪で飛び退き難を逃れた三木ヱ門が乱太郎の首根っこを掴んで留三郎の上からどける。怪我人の手当てをさせろと乱太郎が足をバタバタして抗議し、俺は元気だと留三郎も抗議して、どこまで計算したか分からなくなったと左近が筆を放り投げる。
「……ここは騒がしいな」
呆れた孫兵が呟くと、ええ本当に、と今にも言いそうにきみこが口を開けた。