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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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動物の飼育が趣味のある大名と、傾奇者と呼び囃される南蛮好みのある大名は、子供同士の結婚を通じて同盟を結んでいた。
飼育大名の嫡男と傾奇大名の姫の間には、二歳になる男の子があった。
この子は双方の祖父の気性を等分に引き継ぎ、幼いながらに行いは大胆不敵で常道を踏まず、どんな生き物にも臆さず接する大山の如き胆力の持ち主で、両家から将来を嘱望されている――のだそうだ。
「要するに、元気で活発な普通の二歳の子です」
豪勢な賛辞を簡単に片付けて、孫兵はちょんときみこの頭に触れた。
常に理性的で分別のある行動をする二歳児がいたならばそれはお釈迦様の再来か何かだろうし、怖いという感情がまだ育ちきっていない幼い子なら、アオダイショウのきみこを見かけたら「噛まれるかも、毒があるかも」なんて考えもしないで平気で掴み上げるだろう。
大名と呼ばれるくらいの人でも、孫可愛さには目が眩む。
眩むだけでは済まないのが下手に地位と財力のある人間の悪い所だ。
「傾奇大名が出入りの貿易商の伝手で南蛮の猿を買い入れ、それを飼育大名へのお歳暮に加えて孫に贈ったそうなのですが」
希少な生き物が手に入って飼育大名は嬉しい、賢い小猿は遊び相手になって二歳の孫は嬉しい、珍かな進物を褒めそやされて傾奇大名は嬉しい、と三方丸く収まって、みんな幸せな筈だった。
が。
「猿が凶暴だったんです」
人に馴れず、触れようとするだけで噛み付く引っ掻く鳴き喚く暴れ回るの大騒ぎで、世話係を何人交代しても片っ端から傷だらけにされてしまう。もちろん孫の遊び相手にするどころではなく、あっという間に飼育大名家の持て余しものになった。
「かと言って、同盟相手からの贈り物を粗末に扱う訳にはいかない。ほとほと困り果てていた時、たまたま飼育大名の城を訪ねて来た貴族が猿に目を付けた」
この貴族は飼育大名の鷹狩り仲間だったが、ほぼ同格の飼育大名と傾奇大名よりも、遥かに官位が高かった。
つまり偉かった。
その珍奇な猿をまろにくれ、と当然のように要求した。
「高位の貴人の命令には逆らえない。同盟主からの大事な進物ではあるが泣く泣くお譲りします――という建前で、喜んで手放したそうです」
「体面というのは面倒臭いな」
三木ヱ門がそう感想を挟むと、最上級生の体面はどこへやらの体(てい)で乱太郎と膏薬から逃げ惑う留三郎をちらりと見て、そうですねと孫兵が頷いた。
「でも、すぐに貴族の屋敷でも扱いきれなくなっちゃって」
だからと言って、その貴族は異国の小猿をどこぞへ打ち捨ててしまうほどの根性悪ではなかったが、全き善人でもなかった。
「よくある話ですけど、その人は位は高いけど貧乏で、土倉に借金をしていたんです。返済が少し遅れたら、意地悪な土倉に屋敷の調度品をすべて取り上げると脅されたので仕方なく、という建前で――」
「――高価な南蛮の猿を土倉に押し付けた?」
神妙な顔で孫兵が顎を引く。
なるほど、たらい回しだ。




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