一方、留三郎に軽くあしらわれた乱太郎はぷんと膨れた。
面白そうな話に混ぜてくれない仕返しとばかりに、蓋付きの箱の厳重な封を解いて取り出した膏薬を手に留三郎にじわじわと迫り、目鼻に突き刺さるような強烈な臭いに怯んだ留三郎が後ろ向きにじりじりと退がる。
「なんで逃げるんですかー。沈痛膏ですよお。打ち身によーく効きますよー」
「いや待て落ち着け、ちょっと待て」
「どこで待つんですかぁ?」
「そうじゃなくて! それ皮膚に付けたら駄目なにおいだろ」
「薬効成分が濃いからですよー。これを貼ったら骨が腐れたり皮膚が崩れたりするなんて事はありませんよぉ、滅多に」
「たまにはあるのか? それ本当に沈痛膏ってやつなのか!?」
腰の引けた六先生が怖い笑顔の一年生に追い詰められる光景というのも、滅多にない見ものだ。
が、三木ヱ門は孫兵の腕を引いてさり気なく衝立の向こうへ戻ると、左近がまだ帳面に集中しているのを確かめてからこそりと尋ねた。
「その猿って、どういう素性なんだ。委員会で購入したものではないな?」
「……」
孫兵はついと三木ヱ門から目を逸らし、黙ってきみこを抱き上げ火鉢に当たらせる。
反抗ではなく、話そうかやめようか迷っている。そう見て取り、三木ヱ門は少し声を強くした。
「学園長先生の首が懸かるほどのものなのだろう。このまま見つからなければ、生物委員会は学園を存亡の危機に立たせることになったのだぞ」
「もう見つかったようなことをおっしゃいますね」
よほど自信があるんですねとちょっと冷やかすような目つきをして言い、孫兵はふっと短く溜息を吐いた。
「あの猿、たらい回しなんです」
「ドクタケを指南した南蛮妖術使いの?」
「それはタライ・マワ師。……鬱陶しいボケはやめてください」
またドクタケと結託して何か仕掛けてきたのかと危惧して、あながちボケたつもりでもなかった三木ヱ門は、生真面目な指摘に首をすくめた。
「たらい回しって。お歳暮じゃあるまいし」
「それが、お歳暮なんです」
「へ?」