「どこにも見当たらないんです。何をしていらっしゃるのかも、さっぱり」
大急ぎで下級生たちに指示を出した竹谷先輩が、捕獲道具を引っ掴むのももどかしく報告に走ったから、状況は承知しているはずなのに。もしかしたら思っている以上に事態は深刻で、最悪の場合を考えて覚悟を決めてしまわれたのかも――ああ、どうしようどうしよう!
「最後まで諦めないのが忍者だ。どこかで善後策を講じておられるんだろう。そう先走って思い詰めるな」
とんとんと背中を叩いて留三郎が声を掛けると、孫兵は悄然として微かに頭を上下させた。はい、と小さい声がこぼれる。
「伊賀崎先輩、きみこは大丈夫ですよ。ちっちゃな怪我だもの」
小さい壺を抱えてきた乱太郎がうつむく孫兵を見上げ、少し困った顔のまま笑いかけた。
勘違いしている。しかし、真摯だ。
黒目がちの目で孫兵を見上げ、それから乱太郎を見たきみこが、自分からするすると孫兵の腕を降りて床の上でまるくなる。三角の頭を伸ばして、乱太郎に向かって大きな口を開けた。
「ね、ほら。元気ですよ。――いじめないから、噛まないでよ」
ズラッと並んだ針のように細い歯にいくらか怯みつつ乱太郎が言うと、孫兵は顔を上げ、どうにか笑顔を返した。
「きみこはアオダイショウだから、噛まれても痛いだけだよ」
「毒はなくても痛いのは嫌ですよう」
長い柄のついた小指の爪ほど小さい薬匙で壺の中身を掬い、きみこの鼻の横をちょんちょんと触って、口の中に掬ったものを垂らす。
ふわっと甘い香りが漂い、まるで味わうようにきみこが舌を伸び縮みさせた。
「消毒薬なのか? それ」
留三郎が壷を指すと、それを持ち上げて乱太郎がニッと笑った。
「蜂蜜です。軽い傷や火傷に塗れば薬に、口に入れれば滋養になるんです」
「さっき木の上から小松田さんに飛び掛かって来たな、こいつ」
もぞもぞうごめく黄褐色を眺めているうちに思い出して三木ヱ門が言うと、孫兵はきみこの頭を撫で、「アオダイショウは木登りが得意なんです」と複雑そうに呟いた。
木登りが得意で無毒だから猿の探索の役に立つ――はずだった。
「竹谷先輩にも教えなきゃ」
きみこを抱えて気忙しげに立ち上がった孫兵が表へ目をやり、少し呆然とした顔つきになる。
視線の向こうに広がっているのは、それはそれは広大な裏山だ。
虫捕り網を担いで正門へ走るのを見かけたと不破先輩が言っていたっけ。それから随分経っているから、山奥まで入ってしまっていたら、竹谷先輩を見つけ出すだけでも一苦労だ――
「……あれ?」
何かに引っかかって、三木ヱ門は首を傾げた。