震度が大きかった地域の皆様、ご無事でしたでしょうか……。
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「生姜湯、ご馳走さま。さてと――」
そう言って火鉢のそばに広げておいた上衣を拾い上げ羽織ると、そのまま医務室の出入り口の方へ足を向ける。
ひらひら舞う袖を掴んで乱太郎が厳しい声を出した。
「ダメですよ。まだ手当てが済んでません」
「もう平気だよ。制服は乾いたし薬は付けたし、仕事が残ってるし」
「だぁめですっ」
指先で帳面の計算式を押さえながらたどっていた三木ヱ門は少し目を上げ、押し問答をする2人をちらりと見て、すぐに伏せる。その小さい動きには気付かずに、乱太郎は六年生に向かって指を突きつけた。
「左側の首と肩の間! 痛めてらっしゃるでしょう? 鎖骨は折れやすいんですから、経過を見るまで無理は駄目です」
留三郎が思わずのように指摘された場所に手を当てる。そして、苦笑いした。
「ちょっと強くぶつけただけで、大したこと無いんだがな」
これくらいの打撲はしょっちゅうだと、肩衣に指を引っ掛けてくるりとめくる。
骨の上の皮膚の薄い部分が、青と紫と赤が入り混じったような凄い色に変わっている。それを見た乱太郎は一瞬身を引き、引いたままいかめしい顔になって、「沈痛膏を貼ります」と宣言した。
その効能を聞きつけたある大名が蔵いっぱいの大金を差し出してでも欲しがったという噂すらある、新野先生が調合法を編み出した打ち身の特効薬だ。ひとたび使えば消炎鎮痛に効果てきめん、しかし薬種をどっさり使うので値段も高価という逸品でもある。
「今、沈痛膏があるの?」
秘薬の名を聞いて左近が驚く。乱太郎は引出しの奥から特別誂えの薬入れをうやうやしく取り出し、頼もしそうに薬棚を軽く叩いた。
「薬の在庫に余裕があるからって、こないだまとめて作り置きしてらっしゃいました」
その時、廊下の向こうから慌ただしい足音が走って来た。
どこへ行くのかと思う間もなく、パンッと音を立てて医務室の戸が勢い良く開く。
「消毒薬!」