「異国の猿なんて飼い始めれば嫌でも目立つのに、どうして隠したがるのか解せねえ」
胡散臭いと、本当に何かが臭っているかのように顔をしかめる。
「それに、買うとすれば間違いなく高いよな。そんな予算が学園から出るか?」
裏返った声を上げそうになって、三木ヱ門はひゅっと息を吸い込んだ。
また生き物を脱走させたという事にばかり目が行っていたが、言われてみれば確かにそうだ。今月ばかりでなく、生物委員会の報告書に高価な猿を買い入れたとの記載があった記憶はない。
なら、猿はどこから来たんだ?
「譲られた……贈られた……あるいは、拾った……」
「捨て猿がそうそういるか?」
「物好きな金持ちが気まぐれに飼ってみて、結局飼いきれなくて捨てたのを偶然見つけた、とか」
「……それは確実に拾うな、竹谷なら」
一旦生き物を飼ったら最後まで面倒をみるのが人として当然だろう! と怒髪天を突きながら。
しかし、それなら何も隠す必要はないはずだ。
向こうの火鉢の前に座る乱太郎の姿が目に入って、ふと思い付く。
「もしかして、盗んだ?」
もちろん、本当の窃盗の話ではない。そんなことをしたら即退学だ。
大名屋敷から唐渡りの金魚を盗み出すという課題を出された風魔流忍術学校の生徒を、一年は組が手伝ったことがある、と聞いたことがある。同様の実技の課題で、どこかのお屋敷から猿を盗って来たまではいいものの、返しに行く前に逃してしまって大慌て――
「――は、ありそうだな」
三木ヱ門が話した推測に留三郎が同意する。
「どっかの大名が知り合いの貴族から他の大名への贈答品にする鷹を預かって、そいつをうっかり逃がした世話係の一族郎党首を刎ねた、って話があるくらいだからな。高価な預かり物を脱走させちまったら、とても大っぴらには出来ない」
「首……」
物騒な話に思わず自分の首筋を撫でると、そこへちょうど生姜湯を持って来た乱太郎が、「喉いたいですか?」と三木ヱ門の顔を覗き込んだ。