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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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出し抜けの大立ち回りに、火鉢の前に端座していた乱太郎が飛び上がった。
「何事ですか!?」
「曲者だ」
踏みつけにした衝立をもうひとつぐいと踏み込んでからポンと飛び下り、三木ヱ門が言う。屈めていた上体を起こして後ろを向いた留三郎は、衝立を少し持ち上げその下を見て急に表情を変え、「しまった」と声を上げた。
「保健委員の左近だ。目ぇ回しちまってる」
「あちゃー」
置き忘れてた荷物を取りに来たんだ、と乱太郎がぴしゃりと自分の額を叩いた。感想はそれきりで、頭を打ったかも、いや息が詰まったのか、と焦る上級生をよそに、いかにももの慣れたふうにすぐさま濡らした手拭いを持って来る。
左近は左近で、額に濡れ手拭いを載せられてからものの十秒もしないうちにパチリと目を開き、「ああビックリした」とだけ言って平然と起き上がった。
「あの……すまん。大丈夫か」
「大丈夫です。不運には慣れてますから」
「いやそういう事じゃなくて」
病人を寝かせていると思ってコソコソしたのが裏目に出てしまいました。
赤くなった額をさすりながらけろりとして左近が言う。縮こまる三木ヱ門を気にする様子もなく、忘れ物らしい帳面を片手に乱太郎に向かって薬の在り処を尋ねる。
「それが、伊作先輩がおっしゃるよく効く鼻の薬、どこにあるのか教えて下さらないんです」
膝で歩いて火鉢の前に戻りながら乱太郎が答える。生姜湯の番というだけでなく、そこが暖かいからなのだろう、さっきとは打って変わってほどけた顔つきをしている。
「そうなんだ? 四郎兵衛が鼻垂らして帰って来たから持ってってやろうかと思ったんだけど、劇薬なのかな」
恐ろしいことをさらりと言って、左近も生姜湯を載せた火鉢ににじり寄る。
何しろ外は寒いのだ。
衝立を立て直し、我関せずの態度を決め込んで自分たちにあてがわれた火鉢に向かっていた留三郎は、吹っ飛んだ綿入れをかぶって悄然と戻って来た三木ヱ門にだけ聞こえる声で言った。
「保健は"雀用薬餌代"だったな」
保健委員会の収支報告書に書かれていた不審な支出だ。
卵や肉を薬喰いするニワトリを保健委員会で飼うならともかく、通常、小鳥の飼育は生物委員会の管轄だし、そもそもすずめは飼って愛でたり便利使いする類の鳥ではない。鳥小屋へ閉じ込めるまでもなくその辺りを跳ね回っているのだから。
「生物委員会に頼まれて、怪我か病気で保護したスズメの餌を作ったのではないでしょうか」
三木ヱ門はじっとりした目でいち早く責任逃れをした六年生を睨み、無愛想に思い付きを口にした。




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