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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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鍋に汲み置きの水を注ぎ、ぴったり閉じる重い蓋をして火鉢の中の五徳に載せてから、乱太郎はもう一度薬棚を開けて、今度は軟膏を詰めた蛤の貝殻をいくつか取り出した。それを持ってぱたぱたと2人の所へ戻って来る。
「こっちがすり傷用で、これが打ち身用です。……んー、これくらいの腫れなら貼り膏薬は要らないかな。口の中の傷は我慢してくださいね。田村先輩、耳の下が痛かったり熱っぽかったりしませんか」
汚れが落ちてさっぱりした留三郎の顔をまじまじと見て細かく頷き、三木ヱ門の輪郭や喉のあたりを注意深く観察して、乱太郎がしかつめらしく言う。
「声が嗄れただけだ。風邪ではない」
「そう思っている間にひいてしまうのが風邪です。最初の手当が肝心ですよ」
気張った口のききかたについ笑い出したくなるが、乱太郎は至極真面目だ。薬は自分で塗ると留三郎が言うと、鍋を載せていない火鉢を2人の方へ押しやり、周りを衝立で囲いこじんまりした空間を作って、服を乾かしてしっかり体を温めるようにと厳命する。
「生姜湯ができたら、そちらへお持ちしますので」
「了解」
片手を挙げて留三郎が答えるのを重々しい顔つきで見届けてから、乱太郎は衝立の向こうへ顔を引っ込めた。
「……なんだか、すごく甘やかされてる気分」
肩に綿入れまで掛けられた三木ヱ門が落ち着かなげに言うと、留三郎は上衣と肩衣の裾を袴から引っ張り出しながら、ふふんと笑った。
「労るとか慮るって単語は、お前の委員長の頭には無いもんな」
「ありますよ。ありますよ、……あれでも」
いたわるは板割る、おもんぱかるは重ん量るに変換されているかもしれないが。
脱いだ上衣を自分の膝にかけて広げ、火鉢に当てながら、留三郎が貝殻をひとつ手に取る。
「作兵衛が鹿子ちゃんにちょっかいを出したのと、鹿子ちゃんの中にあった玉の飾りは、繋がっていそうだな」
指先で掬った軟膏を肘の傷にすり込みつつ、何気ない調子で話し出す。
「カラスがくわえて来て落としたとは、ちょっと考えづらいのですが……これが実物なんですが、作兵衛の持ち物でもないですよね」
懐から手拭いでくるんだ飾りを取り出し、開いてみせる。
無尽にきらめく小さな光に目を瞠った留三郎はしばしそれに見入り、へえ、と感心したような声を漏らした。
「派手な手拭い、持ってるんだな」
「タカ丸さんのです!」




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