「いえ、勝負をしているというわけで……、は……、」
言いながら顔を上げて、三木ヱ門は凍りついた。
さっき消えた険悪を刹那に倍加させた留三郎がぴたりと三木ヱ門の両目を見据えている。目を逸らしたいのに射止められたように視線を外せず、空気を読まずに平然と間に割って入りそうな小松田は、散らかした落ち葉の掃き掃除に戻ってしまった。
「勝負、ではなくて対抗、そう、対抗意識です」
「お前が? 作兵衛に?」
学園で一、二を争う自信家が一介の三年生に? と、口にするより雄弁な目付きで留三郎が無言の詰問をする。
「責任感の在り方、と申しましょうか、ええと、三年の神崎の面倒の見方と言うか……」
「明瞭に喋れ」
色々と伏せたいことを曖昧にしてしどろもどろに説明を試みるが、すぱっと言い返されて、一度は落ち着いた留三郎が瞬間で再沸騰した理由が思い当たらない三木ヱ門はうろたえた。文次郎に突進されて「自分は竹谷だ」と必死でしらを切り通した三郎の気持ちが、今なら分かる。
「田村三木ヱ門」
鉢屋はどこだと怒鳴りまくった文次郎とは対照的な、低い、それは低い声で、留三郎がぼそりと三木ヱ門の名前を呼んだ。
「は……はい」
完全に腰が引けた三木ヱ門が辛うじて声を出すと、目を合わせたまま留三郎はにっこりと微笑んだ。
その目の奥に刃物が沈んでいる幻影が見えた。
三日月の形に曲がった唇が薄く開く。
「吐け」
洗いざらい吐いた。