救いは小松田が挙げた4人の先生と、明らかに部外者の1人の他には記名がないことだ。
急いでいた等の理由で出門票を書かずに出て行ったとしても、御意見無用のホーミング装置を備えた小松田が必ず追尾・撃墜する。
四文字名前の先生を頭の中で思い浮かべている三木ヱ門に訝しげな顔を向けつつ、何か思いついた様子で留三郎が小松田を振り返った。
「入門票を見せてください」
「え? はい、どうぞ」
こちらは事務員の懐に収まっていた色違いの紙挟みが、無事な姿ですぐに出て来る。
入門票と出門票を見比べた留三郎は、指折り数えながら上の空になっている三木ヱ門の頭を紙挟みの角でトンと小突いた。
「残念ながら、今日の来校者は3人いるぞ」
「えー……、どなたですか?」
「ひとりは富士原双旬瀬亥賀――なんだこれ。ふじわらそうじゅんせいか、って読むのか」
どこかで聞いたような名前を更に混ぜ合わせた、いかにも箔付け感の漂う八文字だ。
「あとの2人は、別々に来たみたいだが、突庵望太に北石照代」
教育実習生の"先生"で、しかも名前は四文字。
候補の追加――、これは面倒くさい。
……生物委員に情報だけ丸投げして、あとは自分たちで考えろって言ってやるだけでも、十分に親切だよなぁ。でも、猿を学園の外へ出したのは委員会の後輩の左門だ。僕にもちょっとは、少しくらいは、監督不行き届きとか連座とかの責任がある――のか?
村人の言い掛かりにさえ真摯に報いようとしたという作兵衛なら、自分の知らないうちにクラスメートが面倒を起こしたことに感じなくてもいい責任を感じて、駆けずり回るかもしれないけど。
「作兵衛に負ける訳にはいかないか」
溜息とともに独り言を呟く。三年生に遅れを取るのは四年生の矜持が許さない。
その一言に留三郎が反応した。
「田村お前、作兵衛と何の勝負をしているんだ」