扉ごとぶち破るような勢いで開いた潜り戸の向こうから、蹌踉とした幽鬼のような影がふらりと踏み入ってくる。
扉に弾き飛ばされた小松田を助け起こしていた三木ヱ門は影が迸らせる殺伐とした雰囲気に息を呑み、咄嗟に、よもや首袋を下げてはいまいかとその影の腰周りを見た。
そんな物騒なものの代わりに目に入ったのは、草鞋に脚絆を巻いた頑丈な足拵えと、帯に吊るした木槌や手斧、斜交いに肩に掛けたもっこ、泥で汚れ新しい傷に血を滲ませた留三郎の顔だった。
「お……お帰りなさい」
「ただいま」
反射的に言うと、異様に据わった目つきのまま留三郎は穏当な返事をした。その目がコケている小松田の方を向く。ひとつ瞬き、頭巾を外した頭をひょいと下げた。
「ぶつかりましたか。申し訳ありません、不注意でした」
「大丈夫、慣れてるから」
まとう空気は溢れ落ちるほどの険に満ちているのに言動は尋常なのが、突き抜けてしまった感じで却って怖い。そんな鬼気漂う留三郎を恐れる様子もなく、意外にけろりとして小松田が立ち上がる。空になった自分の手に気付いて「あれー出門票がないー」とひとしきり騒ぎ、辺りの草むらや植え込みの中をがさごそと探り始めた。
手の空いた三木ヱ門は、心なしかやつれた顔にほつれ髪が落ちかかって一種凄絶な面相になった留三郎に、こそっと声を掛けた。
「出先で大変だったそうですね。お疲れ様です」
「――知ってるのか。なんだ、俺、格好悪いな」
目元が少し和らぎ、苦笑のような表情が浮かんだ。乾いて白っぽくなった泥がこびりついた頬を手の甲で擦る。
「用具の一年生たちに聞きました。手間賃、ちゃんと取れましたか」
その質問に留三郎は懐から紐に通した銭を出して見せ、ニヤリとして、すぐに顔を歪めた。
「痛ぇ」
低い声で小さく呻く。