自分も正門へ行くところだったと告げ、ついでに作兵衛と生物委員たちのことを尋ねたが、雷蔵は一瞬考えて申し訳なさそうに首を振った。
「力になれなくて悪いね。それじゃ、失礼」
ごく自然に背を向けて立ち去る。
図書委員会とて、いささか釈然としない点のある収支報告書を会計へ提出している。しかし火薬委員たちのように、用具と生物に何の用だと噛み付いては来なかった。
「本当に後ろ暗いところがないか、三郎次とタカ丸さんの態度が分り易すぎるだけか、だな」
どんなに薄っぺらな本でも紙自体が貴重品だからそれなりに値が張る。授業でも使うものは別として、委員会で購入する本は予算内で収まるよう吟味に吟味を重ねて取捨選択するのが常なのに、今回はその限られた予算の中で同じ本を五十冊もまとめて購入しているのだ。
しかも「雀躍集」なる題名のその本、一冊あたりの値段が妙に安い。一般的な本の価格より一割引きといったところだ。
「もしかして、きり丸が値切ったのかな」
しかしあの名うてのどケチなら、同じ本ばかり五十冊買うなんて勿体ないことはするまい。そのお金でどれだけ他の本が買えることか。どうしても大量に必要なら一冊だけ買って、あとはみんなで写し書きすればいい!
と、頑強に主張するはずだ。そのきり丸が、金銭絡みですら強く出られない相手と言えば。
「大量購入は中在家先輩のご意向――?」
図書委員会へ監査に入るとなればあの委員長と対峙しなければならない訳で、こちらも委員長を旗頭に押し立てねばとても太刀打ちできない。
ある意味では閻魔大王の膝前より恐ろしい場所へ出頭した今は、ただただ生還を願うしかないのだが。
縁起でもない事を考えながら歩いていると、やがて正門と、その周辺を掃除している小松田が見えてきた。
やや前屈みになって脇目もふらず一心に落ち葉を掃いている。その間にも、俯く頭の上に枝から離れた秋の葉がひらひらと落ちかかる。
一枚。二枚。三枚、四枚、五枚六枚七枚八枚九枚十枚じゅういちじゅうにじゅうさんたくさん――
「すみませーん、こま」
「ぎゃー!!」
三木ヱ門が声を掛けようとした瞬間、箒を放り出して小松田が飛び上がった。