「竹谷先輩に変装した鉢屋先輩に、そうと気付かずに会っていたようです」
「あれ、そうだったの?」
期せずして同じ状況に置かれた三郎と文次郎が、同じ嘆き節を口にしたことを説明する。
「山本先生の逆鱗に触れた覚えがない潮江先輩と同様に、鉢屋先輩は潮江先輩から剣突を食う理由を思い当たらなかった。ということは、やはり何もしていらっしゃらない。――そうすると、じゃあ本当の犯人は誰だ、という話になるんですが」
まだ涙が滲む目元を袖で拭って三木ヱ門が言うと、雷蔵は少し考えて、質問した。
「偽の潮江先輩がくのいちたちに失礼を言ったのは、いつなのかな」
「午後の授業が始まってから放課後までの間――だと思います」
その答えを聞いて軽く頷き、雷蔵はいとも簡単に断定した。
「確か六年生は変姿術の授業だったよね。それじゃ、潮江先輩に変装していたのも六年生の誰かだよ」
六年生が授業中なら他の学年も当然授業中だ。実習や演習なら教室の外へ出るし、くのいち教室の生徒が男子棟へ来ることもある。が、授業中に意味もなく変装してくのいちとお喋りなぞしていては必定、先生に叱られる。「六年生に変装して怪しまれずにくのいちとお喋りする」という実習が行われた可能性もあるが、下級生は言うに及ばず、三年生や四年生でも背丈の違いで変装を見破られるだろうし、
「五年生は全クラス、学園長先生のご友人の合同特別講座で教室に押し込めだったんだ」
そう言って、雷蔵はなぜか疲れたように苦笑する。
「あー、そうか……そうだ、そうですよね。六年生だ」
少し考えれば分かることに自分で気付けなかったのが悔しくて、三木ヱ門は口を思い切りへの字にした。変装の道具はその場にあったのだし、先に課題を終えて暇になったものは遊んでさえいたと、七松先輩がおっしゃっていたじゃないか。なのに、
――待てよ。
そう、折角道具が手元にあるのだ。御幣と鏡を矛と盾にして打ち合うだけじゃない、課題以外の変装をしてみるのも遊びのうちだ。例えば同級生の顔とか。
『この白粉を塗ると難が隠れるから使ってみるかとか何とか言いやがったんだよ!!』
『しかし女のひとと言うのは、年に関わらず白い肌に憧れるものではないのか?』
『白さにも限度があります』
『ふうーん?』
「犯人、分かったーッ!」
突然三木ヱ門が絶叫し、雷蔵がのけぞった。