先生と言えば、外出した先生が誰なのか左門に聞くのを忘れていた。
「よし。まずは出門票だ」
鹿子を「寝間」へ収め、次に何をしようか考えていた三木ヱ門はひとつ頷くと、正門の方角へ向かって歩き出した。
門へ辿り着く前に生物委員に出くわせばそれで良し。会えなかったら、小松田に出門票を見せてもらって猿を持ち出した先生の当たりをつけて、それも一緒に伝えればいい。ついでにさっきの飾りも落し物として小松田に届け――
「る、のはやめたほうがいいか」
懐の包みを制服の上から押さえ、歩きながら考える。
装飾品に詳しいタカ丸が「高いよ」と言うのだ。万が一持ち主が取り返しに学園へ乗り込んできた時、「失くしました、えへ」では済まない代物だろう。高価なものを無造作に持ち歩くのも落ち着かないが仕方ない、あとで吉野先生にでも預かっていただこう。
それにしても、火薬委員のあの態度。
「大量の材料を購入して、大量の鳥の子を作って、大量に誤爆してもう在りません、ってね……」
本来なら、収支報告書と一緒に提出した材料を買った時の領収書と、その材料を用いて作った鳥の子――煙玉の数を突き合わせて、予算を他の事に流用していないかを監査する。火薬委員会はそれに先んじて、「誤ってほとんど破裂させてしまったので現物が無い」と、顧問の署名付きの但し書きを報告書に添えていた。
頻繁に使う消耗品をたくさん作っておくのは、別におかしなことではない。
うっかりして備品を損ねるのは勿論褒められたことではないのだが、そう珍しいことでもない。
火薬委員長代理が会計委員長にさんざん皮肉られるのを、気の毒に思いつつ少し離れて見物していればそれで片は付く、と思っていた、が。
陽だまりでちょこちょこと跳ね回っているスズメの群れをちらりと見る。20羽ほども集まってチュンチュンとさえずり合う中には、夏の最後に生まれたらしい、他のものより一回り小さい幼いスズメもいる。
「鳥の子」
を、火薬委員会は本当に作ったのか?
誤爆させたというのが嘘だとしたら、材料を購入したことになっている予算は、一体どこへ消えた?
「何か悩み事でも?」
知らぬ間に眉間に深いしわを寄せて歩いていた三木ヱ門は、前から来た誰かの声にはっとして顔を上げた。