今となっては太大文字エヒメッシが一番上にあるのがせつなむなしいので、いま読んでいる本からの雑なメモ書きです。
『江戸の化物 草双紙の人気者たち』(岩波書店)/アダム・カバット著。
筆者は日本近世文学を専攻する来日35年のアメリカ人大学教授で、全編日本語で書かれています。下手な日本人が書くよりはるかに美しい日本語です と下手な日本人がここで平伏しています。そのうえ一種の専門書なのに文章がとても読みやすい。
「1999年に刊行した自著(『江戸化物草紙』小学館)の表紙に、当時は世間で殆ど知られていなかった豆腐小僧の図絵を使った。これ以降、この絵の姿が現代版豆腐小僧の原型になった」とのことで、「江戸中期~明治時代まで人気を博した"豆腐小僧"を現代に呼び戻したのは自分」と自負しておられる化物大好きなお方です。というか化物の中でとりわけ豆腐小僧激ラブなようで、本書の中でも豆腐小僧にまるまる一章割いてらっしゃいます。
兵助=豆腐の契機になった絵本『にんタマ三人ぐみのこれぞにんじゃの大運動会だ!?』の発刊が2004年2月だから、『江戸化物~』がなかったら豆腐小僧という名称自体が現存せず、兵助がのちのち豆腐小僧呼ばわりされることはなかったかもしれないかもしれない。
豆腐小僧とは、
・竹の子笠をかぶり紅葉豆腐を載せた丸盆を持った、4~5歳から10歳以下の子供の妖怪。
・頭がでかい(「豆腐小僧といふ化物は頭大ぶりにて、~」『妖怪仕内評判記』より)。
・目がバチバチ光る。
・夜、人の後をついてくる。または豆腐を勧める。いらんと言っても勧める。
と定義されるモノで、基本的に無害。
たまに悪さをするのはイタチの变化で、「勧められた豆腐を食べると体にカビが生える」というのは水木しげる先生の漫画のオリジナル設定だそうな。ちなみにカビが生えた被害者は言わずもがなのねずみ男。
民間伝承の中の化物ではなく、草双紙(絵本)や芝居から発生して広まった一種のキャラクターとされています。発行年不明の『ばけもの』(西村重信:画)という作品内の挿絵が初出で、この時は豆腐小僧という名はまだ無く、武士と中間らしいおっさん二人に
「おぢさん、これ酒豆腐買ふて来た 奴(やっこ)で一つあがれ」
と豆腐とちろり(酒を入れる容器)を差し出す不気味可愛い姿が描かれています。
ところで本書『江戸の化物~』の発刊は奥付によると2014年1月です。
教授いわく、1999年の復権以降、
「多くの人たちが自分なりの豆腐小僧を描いて、ネットで発表公開していた」
「現代風のバリエーションは無数」
「色っぽい少女バージョンの豆腐小僧もある」(以上、本文から引用)
という状況が観察でき、その上で"小僧(幼い男児)"へのこだわりはないがどれも必須アイテムの竹の子笠と紅葉豆腐を載せた丸盆は持っているのが面白い と述べておられます。
…忍たま絵師さんたちがお描きになった「豆腐小僧兵助」の絵を教授が閲覧していた可能性は非常に高いと思いませんか。