「……何をしているんですか、と聞いたほうがいいですか?」
三木ヱ門と鹿子の近くをたまたま通り掛かった三郎次が、わざわざ足を止めてそう尋ねた。
隣には同じ火薬委員のタカ丸も一緒にいる。
地面に膝をついて片腕を鹿子の砲身へ突っ込んでいる同級生を見て、実に腑の落ちない顔で首を傾げる。
「鹿子ちゃんの大掃除?」
「違います、けど、もっ」
外からは見えないが、砲腔内で指先が攣りそうになるほど腕を伸ばしきってばたばた空を掻いていた三木ヱ門は、小生意気な物言いをする後輩はきれいに無視してタカ丸に答えた。
「中に、何かが、落ちてて」
車輪付き移動式砲台に少し上を向いて据え付けられている鹿子の中の、尾栓の辺り――一番地面近くまで下がっている所で、西日を受けてきらりと光るものがあったのだ。
散歩前の手入れをした時、もちろん鹿子の内外にはにチリひとつ残さなかった。手入れの道具を片付けに行って戻るまでの間に「何か」が砲腔に入ったに違いない。作兵衛が放り込んだのか、それとも作兵衛は「何か」に気がついて、取り出そうとしたのか?
どっちだ?
そんな事を考えつつ頑張るうち、爪の先にやっとわずかな手応えを感じた。しかし、これ以上無理をしたら、指が反り返って爪がばりばりと剥がれてしまいそうだ。
「ねえ、三郎次」
「ちぇっ。はい」
鹿子の後ろに回ったタカ丸と三郎次が、せーの、と声を合わせて重い鹿子の尾部を持ち上げ、砲口を少し下へ向かせる。
砲腔を滑った「何か」が三木ヱ門の手の中に飛び込んだ。
「なになに? 何が出て来た?」
手のひらに握りこんで取り出したものを見て、訝しそうな笑い出しそうな複雑な表情をした三木ヱ門に、タカ丸が好奇心に目を輝かせて詰め寄る。その後ろから、興味の無さそうな顔を作った三郎次が爪先立って覗き込む。
困惑顔の三木ヱ門の手の上で、小粒の玉(ぎょく)を連ねた小さな飾りがきらきらと光っていた。