「すまんが一年生たち。僕を忍たま長屋へ連れて行ってくれ」
「へ? 長屋?」
「今日はもう自室に帰って大人しくしている、と言うことか」
何を言い出すのかと身構えていた用具委員たちはキョトンとしたが、何となく思惑を察した三木ヱ門がそう言ってみると、左門は「はいっ」と大きく頷いた。
左門が部屋の中に落ち着いているのを見れば、憂鬱な気分でいるであろう作兵衛は「迷子のクラスメートをあちこち探し回る」という面倒な日課を今日はやらずに済むと、ちょっぴり心を軽くするだろう。自分が迷子になると作兵衛の負担になることを承知している左門と三之助にしかできない、なんとも奇妙だが真摯であることは間違いない思いやりの示し方だ。
無自覚な三之助はともかく、自覚があるなら普段から自重しろと、今は言ってはいけない。
「というわけだ。お前たち、頼まれてやってくれるか」
腕に巻きつけて確保している縄を指して三木ヱ門が言うと、一年生たちは互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「3人がかりなら何とかなるかな?」
「力持ちのしんべヱがいるし」
「田村先輩、縄をお預かりします」
意を決したようにしんべヱが手を差し出す。三木ヱ門はその手にしっかりと縄を結び付け、間に喜三太と平太も巻き込み、左門には決して一年生を引きずって走るなと懇々と説いてから、ちぐはぐな数珠繋ぎ一行を送り出した。
「……一年ボーズには悪いけど、渡りに船だな」
ヘコんだ作兵衛がどうして鹿子に腕を突っ込むことになったのかは謎のままだが、それはそれとして、ひとりのほうがよほど生物委員を探しに動きやすい。ピカピカにしたばかりの鹿子も探索の共には少々重過ぎるから、残念ながら今日はこのまま仕舞うしかなさそうだ。
「せっかく綺麗になった姿を皆に見せる機会だったのになあ」
三木ヱ門は膝を屈め、人間なら顔に当たる――と思う――鹿子の砲口の高さに目を合わせて、優しく話しかけた。
冷たい夕方の風がさあっと吹いて鹿子の頭上の梢が大きく揺れる。その拍子に、磨き上げた砲身の中まで、明るい西日が長く差し込んだ。