さっきから文次郎に面倒臭くじゃれかかっていた続き――、でもないらしい。背後に潜むというよりは文次郎を前へ押し出し、盾にして、三木ヱ門と勘右衛門がいる方角から身を隠そうとしている。
制服の背中を鷲掴みにされて振り回されている文次郎は、たった今までふてぶてしく構えていた三郎の豹変にひたすら戸惑っている。
「おぉい、鉢屋? 何が何なんだ、お前のやることは訳が分からん」
「すずめ、」
「すずめ?」
裏返ったままの三郎の声が呻き、復唱した文次郎がちらと周囲を見回す。
勘右衛門が召喚した忍雀の集団はその寸前に、やはり勘右衛門の号令一下、すでに散開している。だから文次郎に見えたのは、廊下の端にしゃがんで楽しそうにしている勘右衛門とその前にぽかんとした表情で突っ立っている三木ヱ門、それに数羽のすずめが地上の陽だまりで戯れる、至って平穏な風景だった。
「……すずめ怖い」
「うわ、そこ触るなくすぐってぇ……は?」
背中に額を押し付けて三郎がぼそっと呟いたのを文次郎が聞き返した途端、三郎の堰が切れた。掴んだ服ごと文次郎をがくがく揺さぶり、ほとんど半泣きになって駄々っ子のように喚き立てる。
「ヤなんです、怖いんです、やだやだやだすずめやだぁぁぁ」
「わ、おい、止まれ鉢屋止まれ舌噛む目ぇ回る」
「先輩たすけて」
「まさかベソかいてるのか、お前」
「助けてください」
文次郎にすがり付きぐすぐすと鼻声で懇願する三郎の態度は到底、ただ悪ふざけをしているようには見えない。これが演技だというなら、京で一番の役者もその生計を投げ出して出家遁世したくなるだろう。
仙蔵に一体どれほどこっぴどいトラウマを植え付けられたのか想像したくもない。
普段は何かと斜に構えた三郎の取り乱しっぷりに三木ヱ門が顔を覆いたくなっていると、さすがにびっくり顔で目を瞠っていた勘右衛門は、妙に感心した様子で「ふうん」と唸った。
「三郎が自主的に上級生に頼るのって初めて見たかも。めずらしー」
「"頼る"って状況ですかねこれ」
「そうだなあ、ちょっと違うのかな。潮江先輩は鬱陶しがってもちゃんと構ってくれるから」
三郎も甘えやすいんだよね――と言って、にっと笑う。