三木ヱ門がさっきの文次郎を真似て無言で半眼をすると、勘右衛門は取ってつけたように悄然とした表情をした。反省はしてるよと両手を合わせて拝んでみせるが、そんな殊勝な態度をしたそばから含み笑いでちらっと舌を出したりする。
なおも黙っている三木ヱ門に圧力を感じている様子はないものの、勘右衛門はぐるりと辺りを見回して、ちょっと肩の強張りをほぐすような仕草をした。
「いやさぁ。楽しかったんだよね、実際。俺はウチの委員会にとって"裏予算"のフェイルセーフポイントだから、ある意味計画の蚊帳の外でさ、他のみんながこそこそひそひそやってるのがやっぱりちょっとは羨ましかったりして……悪い事してるんだけどね! それだから、俺は俺で情報収集のほうに力を入れてみたらなんかハマっちゃってさあ。標的をそれとなーく誘導して話を聞き出したり、集めた情報を分析してみたら隠し事が浮かんで来たり、予測を立てて張り込みをしたらビンゴ! とか、だんだん面白くなってきちゃって。いやー、忍者の本分って確かに諜報だよなーって、すごく実感しちゃった。あ、でもね」
一息に喋りまくる勘右衛門に圧倒されて、やや仰け反り気味に身を引いていた三木ヱ門の鼻先にぴっと指を突きつける。
「生物委員会の周辺は一切触れなかった。八左ヱ門は"裏予算"に噛んでないし、何かがあるってのは分かったけど、安易に首を突っ込んでいいことじゃない気配がしたから」
それはそれは大した友情ですこと。
そうチクリと言ってやりたくなったが、水練池のほとりで「あいつらを関わらせたくなかった」と叫んだ八左ヱ門の姿を思い出すと、まぜ返す言葉は口から出る前に舌の上で溶けてしまった。踏み込んでいい領域と踏み込まれたくない境界が自ずと合致しているのは相手を思えばこそだからだろうし――その関係は、それこそ安易に茶化していいものではないと、三木ヱ門には思えた。
こんな考え方、甘い……かなぁ?
「その代わり、作法委員会が面っ白いことやってたよお」
葛藤する三木ヱ門をよそに、内緒話をこっそり耳打ちする時のように目をきらきらさせて勘右衛門が声を落とした。
と言っても、目が取れたとわざとらしい悲鳴をあげる三郎と、その辺りの部品を片手に掴んで気味の悪そうな顔をしている文次郎がこちらを気にかけるそぶりはない。
無くて幸いだ。
「鷹の代わりにすずめを鍛えて忍雀が出来上がった話でしょう」
先回りして三木ヱ門が言うと勘右衛門は一瞬拍子抜けした顔になったが、すぐににんまりした。
「そう、俺もその話を掴んだ。それでね、」
言いながら唇の横に指を当て、ひゅうっと音のしない指笛を吹く。