「情報屋だったんだよ」
すっごく頑張った田村に敬意を表して白状しようと秘密めかして囁き、丸い目をちかちかとはしっこく瞬く。
「五年のみんなで企んでたことはバレたみたいだし、それならもう黙っている理由もないし。悪い事って出来ないもんだね」
「情報屋って……それじゃ尾浜先輩は、諜報活動で裏予算の手助けをしていたんですか」
「へえ、会計は"裏予算"って呼んでるんだ。いかにも背徳なカンジだなー」
「ごまかさないでください!」
「ごめんごめん。これでもちょっとは動揺してるんだよ、俺」
そうは見えない。
眉を釣り上げた三木ヱ門とは逆に、眉の端を下げて恐れいったふうな表情をしてみせるが、勘右衛門の態度にはどことなく余裕がある。実行役ではないとはいえ、会計委員会の目を欺いて予算をプールしようという計画がばれたと、たった今自分で言ったばかりなのに。
開き直った? しかし自棄になってるのともどこか違う気がする。
四年生の三木ヱ門では勘右衛門が韜晦している真意は何とも測りがたい。しかし頼みの文次郎はまだ三郎とわあわあやるので手一杯だ。……三郎の目元が顔からごそっと外れている猟奇的な光景が目に入って、三木ヱ門はひゅっと息を呑んだ。
自分と同じ顔が大変なことになっているのを見た勘右衛門も、さすがに一瞬笑顔が褪せる。
「やだなーあれ……えーとね、諜報って言うと格好つけ過ぎで、あっちこっち歩き回って見たり聞いたりちょっとは調べたりして集めた情報を、何でもかんでも同級生に喋くってたただけです。だからうろついてるところを捕まって黒板交換を手伝うことになったんだけど」
「何でもかんでも?」
「嘘っぽく聞こえるだろうけど、その"裏予算"ってやつを具体的にどう実行するか俺は知らないんだ。だから、いる情報といらない情報の区別が俺にはつかないから、集めたそばからだだ漏らし。知っていたからって損するわけじゃないしね」
その中から必要な情報を取捨選択するのは聞かされた側任せ――ということか。
五年生同士が寄り集まって喋っていても、あるいは勘右衛門が同級生の誰かを呼び止めて話しかけても、それは格別注意を惹く眺めではない。せいぜいが「五年生は仲が良いな」と思うくらいで――そこで機密事項に関わる(かもしれない)情報提供が行われている、とは考えもしない。
「あ」
「あ?」
「一年ろ組の教室から医務室へ行く途中で、もしかして不破先輩にお会いになりましたか」
「んふふー。会ったねえ。小さいつづらを持ってたな」
「……尾浜先輩、楽しそうですね」
雷蔵の変装をしている三郎のふりをした雷蔵がいやにこまごまとこちらの状況を把握していた理由は、これなのか?
情報を集めると言ったって勘右衛門ひとりでは限度があるだろうに。