「ご存知なんですか」
「なーにをー?」
我知らず問い詰める口調になった三木ヱ門の気負いを、勘右衛門はのんびり間延びした口調で受け流した。が、顔は意味有りげな色を浮かべて、にこにこと笑っている。
「田村が食草園やら焔硝蔵やら学園の中をあちこち駆け回っていたこと? 七松先輩が長屋の廊下を地下からぶち破ったこと? 八左ヱ門が善法寺先輩に屋根の上から追い落とされたこと? 善法寺先輩が怪しい薬を作って実験していたこと? それとも、潮江先輩にほっぺたを撫でられた田村が――」
「ぎゃあ!」
並べ立てられる情報の断片の数々に呆然としていた三木ヱ門は、勘右衛門が一段と笑みを深くして言いかけた最後のひとつを反射的な悲鳴で遮った。
おかしい。
冷や汗で空回りしそうな頭で必死に考える。勘右衛門と顔を合わせたのはこれが本日二回目だし、挙げ連ねた「事件」はどれも、現場に勘右衛門はいなかった。伊作が薬の実験をしていた話など、さっきの尋問で吐かせて初めて表に現れた事実だ。注意して観察していれば「保健委員長がおかしな動きをしているぞ」と気付いたかもしれないが、忍術学園の生徒は多かれ少なかれ、傍目には変に映る行動をごく当たり前にする。そんな中でこれと言った理由もなく特定の個人に特に関心を持って注視するなんてことを、するだろうか。
「……尾浜先輩は、」
「うん」
やっとのことで三木ヱ門が口を開くと、勘右衛門は笑顔のまま相槌を打った。
「学級委員長委員会が新しく購入した"つづら"を――」
"つづら代"の名目をつけて空計上した不正な予算を。
「何に使う予定か、知っていらっしゃいますか」
その質問に答える直前、勘右衛門は軽く声を上げて笑った。三木ヱ門にはそれが、事情を知る共犯者に向ける、ある種の親しみを込めた声に聞こえた。
「さてねぇ。"買った"のは三郎だから、詳しいことは知らないな。でも、つづらはいくつあっても困らないし、あればあったでいくらでも使い道があるよねえ」
「……そうですね」
五年生たちが共謀した裏予算に、学級委員長委員会の二人目の五年生である勘右衛門は深くは関わっていないだろう――という予想は当たっていたようだ。だからといって完全に部外者として傍観していたのでもなさそうではある。
「俺はねー」
眉間にしわを寄せる三木ヱ門と、文次郎にアイアンクローを掛けられている三郎をちらりと見比べて、勘右衛門が声をひそめた。