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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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痛い痛いと大げさなほど騒いで三郎は顔を背けようとするが、首を振ったくらいで振りほどけるほど文次郎の握力は軟弱ではない。半切りのすだちでも絞るようにぎゅうとつままれた口の端が面白いくらい伸びる。
潮江先輩、手に力が入らないのは治ったんだ。湯気の効果が切れたのかな。
揉めるふたりの様子がふと目に付いて三木ヱ門の視線が逸れると、それを追って自分の顔をしている三郎を見た勘右衛門が、ぽんと手を叩いた。
「そっか。田村が見た医務室にいる"俺"は三郎だよ」
「えっ?」
医務室前の廊下で膝を抱えていた"勘右衛門"の姿を思い出す。周囲に暗雲が立ち込めるようだったそのどんよりした雰囲気は確かに、いつも通りからからと明るい"この"勘右衛門よりも、柱にもたれてつくねんとしていた勘右衛門(中身は三郎)のほうに似ている。
……すると、仙蔵に解放されて八左ヱ門から勘右衛門に顔を変えた三郎はなぜ医務室の前にいたのか、という疑問が新たに湧いてくる。三木ヱ門が見た限りでは三郎に「偽風邪」の症状はなかったはずだ。それに、あのとき隣に作法委員の喜八郎がいたのは偶然か?
つまんで引っ張った部分が際限なく伸びる仕掛けに呆れる文次郎と、涼しい顔の三郎を見比べつつ三木ヱ門は考えた。勘右衛門も笑ってそれを眺めながら説明する。
「俺は一年ろ組の教室で黒板を替えるのを手伝ったあと、すぐ医務室に行ったもん。乱太郎と左近が――あと半分死んでる膏薬だらけの食満先輩がいたけど、"鼻薬"の場所は善法寺先輩しか知らないからって、代わりに生姜湯を貰った」
淀みのない口調の中で、鼻薬、の所だけ妙な抑揚がついた。
それに気付いた三木ヱ門は思わず強く瞬きした。
三木ヱ門の反応を見た勘右衛門はいたずらっぽく笑い、「実体が無いものはねだっても出て来ないよね」と言って、自分の鼻をくしゅっとひねった。

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