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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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その滑舌のしっかりした口調に、三木ヱ門はおやと思った。
声は黒板が落ちて来た時と変わらずざらついている。しかし、薬湯の湯気を吸った文次郎や伊作がそうなってしまったように、眠気でとろけた喋り方ではない。
「尾浜先輩は眠くならなかったんですか?」
「んー。疲れたから今しがたまで部屋でうとうとしてた。けど、眠くなるって何の話?」
「あれ? あの薬湯を飲むと眠気が差すからって、保健委員が注意しませんでした?」
「薬湯って? 生姜湯のこと?」
「え? さっき、医務室前の廊下で数馬たちが薬湯を配っていたでしょう?」
「うん? 医務室なら、だいぶ前に行って来たけど?」
疑問符ばかりが行き交う会話に、三木ヱ門と勘右衛門の首が次第次第に傾いてくる。
どうもお互いの認識に行き違いがあるようだ。
ふたりが噛み合わない会話をしている間、要求されるままに一歩右に移動した文次郎がようやく三郎の態度が無礼なことに気付き、表情に険を浮かべて詰め寄ろうとすると、三郎はすかさずその鼻先に蓮の花を突き出した。
ぱん! と蓮が破裂して、割れた花の間から細かな紙片が勢い良く舞い上がる。
寸前で仰け反って直撃をかわした文次郎のあぜんとする顔に紙っぺらがひらひらと降りかかり、三郎はその一枚を空中でつまんで、「私はハチヤです」と大真面目に言った。
「俺の目の前にいるのが鉢屋三郎なのは知っている」
「瓶鉢のハチじゃなくて、虫のハチ、です。蜂の蜂屋」
指先で震わせてみせる紙片は、言われてみれば蜂の形に似ていなくもない。ひとつひとつちまちまと切り抜いて仕込んだならご苦労な話だ。
前髪に引っ掛かったその「蜂」を払って、文次郎は半眼をした。
「お前の諧謔に付き合うのはくたびれる」
「ならば野暮の極みですが解説いたしましょう。私が手に持っているこの蓮の花、古い名は"はちす"で、これは漢字に直せば蜂の巣ですから、巣の中には蜂が住まっているのが道理」
蜂の一家族を持ち歩いていた私はさしずめ「蜂屋」ということになりましょう。
と、飄々とうそぶく三郎の口元を、黙って手を伸ばした文次郎が思い切りつねった。

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