それを聞きつけて、左門がキッと目元を厳しくした。
「作兵衛は村の人に何を言われたんだ?」
同級生をいじめる奴は許さないぞとばかりに、どんぐり眼をぐりぐりさせる。
「うーんと。名指しで文句を言われた、というんじゃないんですけど、」
左門の眼力に萎縮してしまった平太に代わって、まだ鼻をぐずぐずさせながらしんべヱが言う。
「富松先輩、魚を捕まえようとしたんです」
「罠で獲れなかった分の?」
「ひぇっくしょい!」
三木ヱ門が口を挟むのと同時に、今度は喜三太がくしゃみをした。それが伝染したかのように、平太まで横を向きざまに「くちゅん」とやった。
今日はまだ日差しがあってそこそこ暖かいが、晩秋とも初冬とも言えるこの時期に水に入って作業をしたのだから、体が冷えて当然だ。よくよく見れば、3人とも袴の裾がしっとりと湿って色が変わっている。
「僕だじは橋を架げる時に膝まで濡れだぐらいだから、まだいいんでずげど。……ずびばぜん」
三木ヱ門の視線に気がついた喜三太が全体的に濁音になった喋りで言いさして、左門に鼻紙を貰う。
「……はー。富松先輩は食満先輩が村の人と睨み合い――じゃなくて話し合いをしてる間、ひとりで川の中でばしゃばしゃやって、頭までびっちょりになっちゃったんです。でも、水が冷たいから魚が全然いなくて、とれませんでした」
「そんな、魚が罠にかからなかったなんて、言い掛かりなんだろうに」
「作兵衛は責任感が強いんです」
村人の大人気なさに呆れて首を振る三木ヱ門に、左門が妙に力を込めて言う。
「それで、学園に戻って医務室で風邪予防の生姜湯を貰ってから、富松先輩は"ちょっと用事がある"ってどこかへ行っちゃって。僕たちは、ひと休みついでに日向ぼっこをしてたんです」
喜三太の陰から平太が言い添える。一年ろ組と言えど、さすがに今日は日陰ぼっこをする気にはならなかったらしい。
「富松先輩、どこかでひとりでヘコんでるんじゃないかなあ……」
しんベエが心配そうに言い、一年生たちは憂い顔で頷き合う。同じ顔をしていた左門は突然、垂れていた眉尻をぐいと引き上げ、「よしっ」と辺りに響く大声を上げた。