丸い目が三木ヱ門を見て、それから文次郎を見た。
緩んでいた目元がぴりりと強張る。文次郎がそれに反応するより先に、勘右衛門は満腹した猫よりのろい動作でもったりと黙礼した。
膝頭近くまで頭が下がり――それきり、動かない。
「……寝てるのか、あいつ」
文次郎が言った途端に勘右衛門の左手がゆらっと持ち上がり、虫を払うように首のあたりでぱたぱたと振った。
「薬湯のせいでぼんやりしていらっしゃるのかも」
眠ってはいないらしい勘右衛門を遠目に観察しつつ、三木ヱ門は首を傾げる。
医務室へ乗り込む前、その前の廊下でよどんだ顔つきをして縮こまっていたのを見かけている。少しばかり「偽風邪」の症状が現れていた文次郎は薬湯の蒸気を吸い込んだだけで強烈な眠気に襲われ呂律が回らなくなったのだから、実際に口にしているはずの勘右衛門は、自重も支えられないほどふらふらになっていてもおかしくない。
そう言えば伊作も「副作用で眠くなる」と言っていた。その時は寝てしまえばいい、とも。
保健委員長お墨付きの「病人」という大義名分があるのに、どうして自分の部屋で寝床に潜り込まずにあんな所でぼけっとしているんだろう。
俺もあんなふうだったのか、と文次郎がちょっと顔をしかめる。
「用具の馬鹿みてぇに――」
また留三郎のことを馬鹿と言った。
「――アタマがぶっ飛んで、身の取り回しもできなくなってるんじゃねぇだろうな」
「尾浜先輩の部屋に……」
「突っ込んでおいてやるか」
このまま見過ごして、うっかり廊下で寝こけた勘右衛門が(本当の)風邪を引きこんだなんて後で聞いたら寝覚めが悪い。なんとなく足音を忍ばせてふたりが近付いて行くと、ひょっと顔を上げてそれを見とめた勘右衛門の頬が、また一瞬引きつった。
体を引こうとして足をばたつかせる勘右衛門の背後で、部屋の戸がぱたんと開いた。