口から出るままにぎゃあぎゃあと喚き合っていれば事足りる自分と滝夜叉丸はずいぶん気楽だ、と言うよりガキっぽい。でも、たまたま視線が合ったらそれがど突き合いに雪崩れ込む十分な理由になる文次郎と留三郎の罵倒合戦だって似たようなものだ、と思っていたけれど――実はその裏には禅問答のような深い意図が隠されていたりする?
いや、さすがに無いか。
さっきの馬鹿だ馬鹿じゃねえという無益な口論に然り、剥き出しの感情同士を衝突させることだってある。いつもいつも互いに仮面を被って裏を読み合っていてはくたびれる――
「なんだ、あれ」
怪訝そうな文次郎の声に、三木ヱ門はふと我に返った。
いつの間にか上級生長屋の庭先へ来かかっている。文次郎の視線を辿ると、こちらに面した廊下に人らしい影がうずくまっているのが見えた。
廊下の柱に肩と横顔をぺったり付けてもたれかかり、胸の前で緩く腕を組んで、両足は地面に向かってだらんと垂れている――というだらけた姿勢で、何と言うか、全体的に不定形だ。
それはものの例えで、もちろん一見でヒトだと分かる輪郭はある。しかし、手を離せばすぐにずるずると平べったくなりたがる搗きたての柔らかい餅を無理矢理ヒト型にまとめあげたような、何とも"もたっ"とした雰囲気を漂わせている。
「煮崩れた里芋みてぇだな」
「……いえ、尾浜先輩が座っていらっしゃいますね」
三木ヱ門と似たような感想を文次郎が呟き、廊下の方へ目を凝らした三木ヱ門が訂正すると、その失礼なやり取りが聞こえたのか、餅でも芋でもない勘右衛門はぎょろりと目を動かしてこちらを見た。