覚えているのにそれをわざわざ問いかけてくるのは、何か見落としているから?
「いつ……」
呟いて、考え込む。
脱走した小猿が木に登って、何かの拍子に首飾りの留具が壊れ、下に置いてあった鹿子の砲腔に落ちた。
三木ヱ門はその時、手入れに使った道具の掃除と後片付けの為に鹿子のそばを離れていた。道具の汚れを落とすのに手間取ってしまって、戻って来るまで予想外に時間を食ったっけ。
それでも、首飾りが落ちたところにたまたま通り掛かった作兵衛が「鹿子を壊した!」と思い込み、砲身に腕を突っ込んでキラキラ光るものを拾おうと奮闘しているのを見とがめたのは、左門が角場で捕まえた小猿を外出しようとしていた木下に預けるより前のことだ。
やっぱり一度目の脱走の時で間違いない。
――と言おうとして、ふと引っ掛かった。
小猿は最初の脱走で不運にも首飾りを失くした。
そして、お気に入りの逸品を探そうとして二回目の脱走を決行し、文次郎が手にしていた首飾りを取り戻した。
首飾りを失くしていなければ、「それを探すため」は脱走の動機にはならない。