どうしてって、それが事実だからに決まっている。だから文次郎は「三度目の脱走はさせるな」と八左ヱ門に釘を刺したのだし、生物委員会と生き物の脱走は常にセットメニューだ。その忠告は何も不自然ではない。
……しかしよくよく思い出してみると、そう言われた八左ヱ門は、何故か絶句した後にたちまちかしこまった。
要領を得ない様子の三木ヱ門に、まだうっすら笑みを残した声で文次郎が言う。
「首飾りを持っていた俺に猿が飛びかかって来たな」
「はい」
確かにその通り。まさにその瞬間を三木ヱ門は見ていた。
「俺はその時に、どこかで失くした首飾りを探すためにあの猿は脱走したんじゃないかと、竹谷に言った」
「はい」
そうかもしれない、と八左ヱ門は答えた。その会話を三木ヱ門は聞いていた。
「じゃあ、猿はいつ首飾りを失くしたんだ?」
「はい?」
思いがけない質問に三木ヱ門の目がくるりと回る。
そんなのは分かり切っている。閉じ込められていた檻を抜け出すのに成功して学園内を気ままに散策していた時だ。この騒動の一番初めの頃すでに、捕獲道具を抱えて走り回っている生物委員の一年生たちに出くわし、珍しい小猿を見なかったかと尋ねられているのだ。
白面紅目のもののけじみた化粧をしていた為に退魔の真言を浴びせられた文次郎だって、それくらい覚えているはずだ。