そもそもナメクジは何を食うんだと三木ヱ門は思ったが、尋ねれば藪蛇になるような気がして、別の質問をした。
「厄日に同感って、何かあったのか。上級生はどうした?」
「裏山の向こうの村に頼まれて、落ちた橋を架け直して来たんです」
小川を跨ぐくらいの小さな橋だった、と平太が言う。
「だから作業はそんなに大変じゃなかったんだけど、いざ完成したら、村の人がなんのかんの言って手間賃を払ってくれないんです」
「村で用意する事になってた資材の代金が見積りより高くついたからその分を引くとか、前もって決めた設計図より橋の幅が一寸広いから約束が違うとか」
「作業で川に入ったせいで川下に仕掛けてた罠に魚が入らなかったから、獲れる筈だった分のお金を払えとか、こんなすぐ終わるような工事で手間賃を取るのかとか」
よほど嫌な言い方をされたのか、それがまたよほど腹に据えかねたのか、幼い顔をそれぞれに歪めて一年生たちはかわるがわる訴える。
首尾良く橋が架かったところで急に払う金が惜しくなったらしい村人たちと長いこと押し問答をしたが一向に埒が明かず、疲れと怒りで不満の塊になった下級生を先に帰して休憩させる一方、用具委員長は未だにひとり裏山の向こうで粘っているのだという。
「それは酷いな!」
他愛なく左門が憤った。
「技術料ってものが分かってない! 子供の仕事だからって足元を見られたんじゃないか」
足元? と言いながら自分たちの足の周囲をきょろきょろ見回す喜三太としんべヱに、「そうじゃないよ」とおずおず突っ込んだ平太が、ふと思い出したように呟いた。
「……そう言えば、富松先輩、あのあと大丈夫だったのかな」