中途半端な位置で手を止めた文次郎が変な顔をする。
「さっきは嫌がってツンツンしてたじゃねぇか」
「今は今です。変ではないんでしょう?」
「……いや、自分でやってなんだが、四年が花結びはやっぱり変だぞ」
「……ふくら雀をつけっぱなしにしてた六年生に言われたくないです」
「あれを俺に結んだのはお前だろ」
「結んだ時には乙女子の仮装をしてらしたからですよ。それこそ白粉を落とした時に解いちゃえば良かったじゃないですか」
「変姿の術だ、仮装って言うな。あれはだってお前があんな――」
勢いで言いかけた文次郎がふと言い淀んだ間に、三木ヱ門は甘くなっていた結び目をしっかり締め直した。花結びが嫌なのではなく、それを見てからかおうとしているのかと思ったから抗議したのであって、動機が悪戯心にしろお遊びにしろ文次郎にそのつもりがないのなら、ひらひらとカワイイ飾り結びは別に嫌じゃない。
何しろ忍術学園のアイドルなのだから、元結に花結びを付けるくらい余裕でセーフだ。
手探りで五弁花の形を整えている三木ヱ門を横目に、文次郎がぼそっとこぼした。
「――あんな得意気な顔をするから、無下に解くのはもったいねえなとか、うっかり考えて」