ぱっと両手で耳を隠した文次郎を真顔で見つめながら、三木ヱ門は自分の耳をちょいと引っ張った。
「動物みたいにくるくる動かないけど、ヒトの耳も案外、感情が表れやすいそうです」
「……」
「今日は頭巾をつけていらっしゃらないから、見えちゃいました」
「まさか俺が冷静沈着だとか思ってたんじゃないだろうな」
「それはないです」
三木ヱ門の間髪入れぬ即答に文次郎がちょっと傾いた。
好戦的で激しやすく初対面のドクたまにさえ「無駄に熱いヒト」と評される文次郎が冷静沈着な訳がない。その自覚も皆無だろうが、きっぱり否定されると少しは気落ちするらしく、口調が幾分やさぐれた。
「なら、感情を制御できない未熟者だって思ったか。お前と二歳しか違わねぇんだから仕方ねえだろ」
「血流を意志でどうにかできたら人外ですよ。えーと……」
考え考え、三木ヱ門は言葉を継ぐ。
「腹が据わっているのと冷静なのは違いますよね。って、そうではなくて、……恥ずかしいとか照れるとか、そういう感情が先輩にもあるんだなー、と」
「……あん?」
「仰る通り年齢ならほんの二つの差ですけど、六年生は四年生から見ると恐れ多くて近寄り難いと言うか雲上人であって人ではないと言うか……だから、その、耳が真っ赤になるなんて人間っぽいところを見られてなんだか嬉しいなって……いえあの、失礼なことを言ってますね、私」
我に返った途端、どっと冷や汗が噴き出した。
これは殴られるぞと覚悟して首を縮めたが、文次郎は耳を押さえたまま動かない。