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「知らんぷりする訳にもいかないが、しかし……」
あちこちへ散開している生物委員を探し出して伝えようにも、左門を連れて歩き回るのはあまりに手間がかかるし、彼らのさっきの挙動不審ぶりを見るに他の生徒に伝言を頼むのも避けた方が良さそうだ。
「かと言ってここで縄を解いたら、お前は放たれたニワトリ同然だからなあ」
「失敬な! 鼻紙くらい持ち歩いています」
「……鼻垂れたニワトリ?」
花粉症の猿というのはいるらしいが。いや、そんな事はどうでもいいのだ。
作兵衛がいればこいつを押し付けるのに、と滝夜叉丸に託された頑丈な縄の一端をしっかり掴んで、三木ヱ門は嘆息した。そしたら鹿子にちょっかいを出したことは勘弁してやらないでもないのに。
本当は、今日は委員会がないから左門がどこへ行こうと知ったことではない。だが、左門がひとりでほっつき歩いているのを滝夜叉丸に目撃されたら、「三木ヱ門は三年生さえ捕まえておけず逃がした」と、盛大に鼻で笑われるのは間違いない。
プライドに懸けて、そんなのはごめんだ。
「あーあ。今日は厄日だ」
「……同感」
「ん?」
小さく呟いた独り言にどこからか陰鬱な声で返事が返って来て、三木ヱ門と左門は辺りをきょろきょろと見回した。
「あ。先輩、あそこです」
五間ほど離れた植え込みの方を左門がぴっと指差す。その指の先で、ゆらりと人影が立ち上がった。