そう言いながら、三木ヱ門を――飾り結びを付けた三木ヱ門の唐輪髷を見る。
「できが悪いか。仙蔵が持って来た当世図会で見たんだが」
「いえ、上手に作れていますけど、そうじゃなくて」
タカ丸が厳しく頭を横に振り、文次郎が首を傾げ、結び残した頭巾の先に触れて三木ヱ門もきょとんとする。
何を叱られているのか分からない。
会計委員たちの顔にそう書いてあるのを見て取ったタカ丸は、ちらりと三郎次に目をやって、まだ道具類をかき回しているのを確かめてからやや声を低めた。
「後輩にこの髪型を強要するとか、そういう倒錯したのは……」
「ああこれ、強要ではないです」
好きでしているのでもないが、嫌なら解いていいと言われているほんのいたずらだ。ことさら文次郎を庇うつもりでもなく三木ヱ門が言うと、タカ丸はえっと目を瞠った。
「だって前にヘアカタログを見せたよね?」
「ええ、堺や京で流行り始めてる最新モードって……あ、女の人の髷だから駄目ですか」
「だけじゃなくて!」
忍者はそれが必要なら化粧までして女装をするのだから髪型くらい、と三木ヱ門が気軽に言おうとすると、タカ丸はなぜかまた素早く三郎次を盗み見た。そしてぐっと三木ヱ門と文次郎に身を寄せて、口の端で囁いた。
「唐輪髷って、プロのお姐さんがするんだよ」
「プロ?」
「柿色の」
ほんの一瞬、箱を両手で抱えたままタカ丸は器用に体をくねらせてみせる。
文次郎はその瞬間に「プロのお姐さん」の意味を察したらしい。三木ヱ門の元結に巻き付けた髪を留める紙縒りを抜く手も見せず引き抜き、ばさりと背中に束髪が落ちた時に、三木ヱ門もやっと理解した。